アンソロ爺(ジー)

 

20世紀ラテンアメリカ短篇選 (岩波文庫)

20世紀ラテンアメリカ短篇選 (岩波文庫)

  • 発売日: 2019/03/16
  • メディア: 文庫
 

 

アンソロジー好きの爺だからアンソロ爺。
広告批評」の天野祐吉のブログのタイトルはあんこ好きだからあんころ爺。
非暴力主義の爺はガン爺。
デジタル・ガジェット好きの爺はファイブ爺。もう止める。

 

『20世紀ラテンアメリカ短篇選』野谷文昭編訳を読む。

中南米文学」の特徴は


「ヨーロッパの前衛、熱帯の自然、先住民族の魔術と神話が混然一体となって蠱惑的な夢を紡ぎ出す大地ラテンアメリカ

だと。ピンポイントシュート!!

 

全16篇のうち7篇が編者が訳した雑誌からの転載(単行本未収蔵)、残り9編が「訳しおろし」。いろんなテイストが楽しめる。何篇か、紹介。

 

青い花束』オクタビア・パス
夜の散歩中にナイフを背中に当てられる。恋人のために青い目玉をくりぬいて花束にするという。シュール。

 

『チャック・モール』カルロス・フエンテス
「蚤の市」で買ったチャック・モール(「生贄を捧げる祭壇として用いられたと思われるマヤの仰臥人像」)。「複製品」かと思ったら、本物らしい。像は生きていると書かれた男の日記。狂気のせいなのか、あるいは。

 

『大帽子男の伝説』 ミゲル・アンヘル・アストゥリアス
子どもがついたまりが僧坊に。修道士はまりつきに夢中になる。持ち主の男の子と母親が修道士の元へ。まりの正体を知らされる。修道士が放り投げると、まりは黒い帽子に変身。メルヘンチックかつ神話チック。なるほど、これがマジックリアリズムなのね。
ジャミロクワイかとこっそりツッコミ。

 

『フォルベス先生の幸福な夏』ガルシア・マルケス
海辺のリゾート地。夏にドイツ人女性の家庭教師に教わることになった兄弟。先生はなかなか厳しい指導。しかし、みんなが寝静まった夜にはワインをがぶ飲みなど奔放なスタイル。いつしか兄弟は強い反感を覚え殺意が芽生える。こっそり殺人を仕掛けた翌日、家の前に救急車や兵士が。先生は…。予想外の結末。

 

『物語の情熱』アナ・リディア・ベガ
1987年に出された短篇集からの一篇。「私」は売れない女性ミステリー作家。フランスに嫁いだ親友ビルマを訪ねることに。先生との兼業で蓄えた資金で憧れの渡仏。「私」はフランスで新作を書こうとするも、夫婦仲がぎくしゃくしているビルマに振り回され、それどころではない。プエルトリコピレネーの文化・習慣。人種の違いなどが書かれた紛れもなくフェミニズム小説。ウィットに富んだ文章もなう。一例。

「私の中に住むミス・マープルは、足音が下って行くのに気づいた」

ラストの一ひねりの部分がいるのか、いらないのか。


『目をつぶって』レイナルド・アレナス
8歳の「ぼく」は学校へ行くのが苦痛。途中、猫の死骸に「つまずいた」。「ケーキ屋の入口」には物乞いの二人の老婆。いつもは「半ペソ」あげるのだが、昨日はあげられなかった。ネズミをいたぶる子どもたちを目撃する。また猫に「つまずく」。今度は生きていた。

「目をつぶると、いろんなものが見えるんだ」

ケーキ屋に来ると物乞いの老婆が店員になっていた。しかも、大きなケーキをくれた。
でも、交通事故に遭う。子どもの話は、どこまでが本当でどこまでが絵空事か。

 

イチ押しのアナ・リディア・ベガの著作ってまだ翻訳されていないようだ。「白水社エクス・リブリス」か「新潮クレスト・ブックス」あたりで出してくれないものだろうか。

 

中南米文学」を読みたい人に特におすすめする。かつて話題につられて買ったが、頓挫して書棚に埃をかぶっている『百年の孤独』をお持ちのあなたにも。

 

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