『日本SFの臨界点[怪奇篇]ちまみれ家族』伴名練編を読む。
[怪奇篇]の方が[恋愛篇]よりも個人的にしっくりくる。
埋もれている日本の名作SF短篇を若い読者に読んでもらうことと
最近作品を発表していない作者のモチベーションを高めること、
この2つが編集ポリシーだそうだ。
好きな作品を取りあげてみる。
『DECO-CHIN』中島らも
バカテクでオリジナリティの高いフリークス・バンドに魅せられたロック雑誌の副編集長。バンドに入るためにある決意をする。令和版『春琴抄』的オチ。ウィリアム・バロウズ×ロック。『ガダラの豚』を再読せねば。
『地球に磔にされた男』中田永一
「乙一名義」で知られる作者。スタートがSFとは。「時間跳躍機構」、タイムマシンをめぐる話。勝手に時制や歴史を変えてはいかないのだが、運命に翻弄される男のエゴイズムが上手に描かれている。
『ちまみれ家族』津原泰水
津原の怪奇小説や幻想小説のファンだけど、意外なことにギャグもの。遺伝的に、やたら出血、流血する家族。でも、おかしい。これがほんとの出血大サービス。
『笑う宇宙』中原涼
宇宙船にいる一家四人。でも、妹はここは地球だと。「ぼく」は偶然、「家族三人が乗っていた宇宙船を救助」した。閉鎖空間で妹ばかりか父まで様子がおかしくなる。ラストシーンで真相が明らかになるが、悲しい結末。そうきたか。
『黄金珊瑚』光波耀子
「学校の実験室でケミカルガーデンの実験」をしたところ、すくすく育つ「黄金の珊瑚樹」。どんどん大きくなる。話題となって身に来た者を「信者」にする不思議な力があった。町は「黄金の珊瑚樹」に征服されようとする。なんか『ウルトラQ』っぽい。編者によると日本の女性SF作家(フェミニズム的にはNGだけど)の草分けだそうだ。熊本で結婚して家庭を持ち、筆を折ったらしいが、なんと『エマノンシリーズ』や『黄泉がえり』の作者・梶尾真治のSFの師匠であったことを知る。
『雪女』石黒達昌
著者の作品は何作か、一時期、よく読んでいた。「体質性低体温症」という奇病の女性・ユキに関する研究レポートスタイルで展開する。年齢不詳。アイヌの伝統的な衣服・アツシを着ているユキ。漫画『ゴールデンカムイ』のアシリパと重なる。
女性及び一族の研究に熱を入れ過ぎて医師・柚木。ミイラ取りがミイラになる。作者も医師だからなのだろうか、クールな理系SF。と括れてしまえるが、伝奇風味が効いている。編者に「決定的な影響を与えた短篇」だそうだ。