「奇想文学の名手」とは言い得て妙

 

 

『日本SFの臨界点 中井紀夫 山の上の交響楽』中井紀夫著 伴名練編を読む。

作者は、伴名練曰く「ボルヘスカルヴィーノマジックリアリズムの影響を受け」たそうだ。確かにそうかも。でも読んだことがなかった。「奇想文学の名手」とは言い得て妙。不条理とシュールとSF。ベケットを思わせるような作品もあるし、そのままコントになりそうなものもある。まっさらな気持ちで読んだ感想やストーリーなどを、ば。

 

『山の上の交響楽』
とてつもなく長い交響楽がある。感想するまでに1万年かかる。山の上の音楽堂でこの楽曲を演奏している交響楽団。「8つのオーケストラ」の交代制で24時間演奏している。300年かけて演奏は最大の難所である「八百人楽章」へ。このクライマックスを楽団員たちはどう乗り越えるのか。なんともスケールが大きく、神々しささえも感じさせる。

 

『山手線のあやとり娘』
「山手線の中であやとり」をしていた少女がいた。「赤いランドセル」を背負った少女は「ぼく」にあやとりを誘いかけてくる。彼女は帰らずに、「ぼく」の部屋にいる。少女だと思ったが、よく見るとそうでもないような。なんとも不可思議な話。

 

『暴走バス』
「1日で50mぐらい」走るゆっくりとした暴走バス。「超低速時間」が流れているバスに幽閉状態となった乗客。東名高速道を走りだして名古屋から東京まで20年間かかった。今度は超ゆっくり暴走するトラックが現れる。スローな暴走とはなんたるちゃ。

 

『見果てぬ風』
大きな足のテンズリは、やがて世界の果てにある壁の「途切れる場所」へ行きたくなり、旅に出る。旅先で「途切れる場所」の情報を集まる。出会った人々やもてなしを受けた村の異文化などが描かれる。
テンズリはネネメと夫婦になり、子どもが生まれる。再び旅に出る。今度は美しい女王と出会い、米をご馳走になる。その美味さに驚く。「途切れる場所」の見解の相違から囚われの身となる。土牢からの脱出を試みる。壁の「途切れる場所」目指して。『進撃の巨人』チックな奇譚。

 

『殴り合い』
新居祝いを行なった夜、谷口は妻の康子に「人が殴り合う」シーンを見かけなくなったことを話す。小学生のとき、高校生のとき、大学受験日に彼は目の当たりにした。大学時代、ガールフレンドとホテルに入ったときも、突然、見知らぬ男二人が殴り合いを始める。それは何だったのだろう。なぜ最近見なくなったのだろう。


『死んだ恋人からの手紙』中井紀夫
恋人が亡くなってから手紙が届くという恋愛小説のパターン。「あくび金魚姫」への「TT」からの手紙を紹介するスタイル。戦艦で惑星に行き、場合によっては出撃する状況。同僚が死ぬなど戦況はヤバい。そして帰らぬ人となる。慰めの手紙の後に、「TT」からの手紙が2通届く。優しい文面。悲しみがじわじわ来る。異星人とのコミュニケーションに難しさをあげているが、同じ地球人だってコミュニケーション不全のケースが多々あるものね。
(『日本SFの臨界点[恋愛篇]死んだ恋人からの手紙』伴名練編の拙レビューから流用)


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