趣向を凝らした数々の短篇に酔いしれる

 

 


『最後の三角形』ジェフリー・フォード著 谷垣暁美編訳を読む。

 

幻想小説SF小説怪奇小説、それぞれの枠をくぐり抜け作者が自由自在に拵える短篇は、小説巧者と奇抜な発想力が結実したもの。どれも、これも、脱帽する作品ばかりで、作者の次に編者兼訳者をほめたたえたい。何篇かの紹介を簡単に。ネタバレするのもあるかもしれないので、それはご容赦を。

 

『アイスクリーム帝国』
音や文字に色が見える共感覚を持った「ぼく」。音楽の天才児で、ピアノの個人レッスンの先生を依頼しては、たちまち「ぼく」の方がうまくなる。ある日、『アイスクリーム帝国』でコーヒーアイスクリームをはじめて食べると、少女が現れる。彼女に一目ぼれする。彼女が幻なのか、ぼくが幻なのか。切なくほろ苦いラブストーリー。

 

『マルシュージアンのゾンビ』
最近越してきた隣人がマルシュージア。話し方もいでたちも振る舞いも奇妙な老人。
親しくなると彼は「政府の秘密プロジェクト」でゾンビをつくっていた。プロジェクトが終了後、ゾンビは処分されたが、彼の家に一人いて面倒を見てほしいと。老人の死後、ゾンビのトミーとの同居。これがいいキャラ。なのに、やがて悲しいラストが。

 

『恐怖譚』
詩人エミリー・ディキンスンがヒロイン。彼女の元に若い死神がやって来る。あの世へ連れて行こうとすると、まだ書かなければならない詩がたくさんあると拒否る。死神は取引を申し入れる。呪文を解くために詩人の力がいると。協力してくれるなら寿命をもう少し先送りする旨を伝える。

 

『本棚遠征隊』
本好きな人の部屋には本の山がある。カテゴリー別ならミステリー山、SF山。版元別なら国書山、ハヤカワ山とか。この作品も活字中毒者の乱雑した本棚が出て来る。ところが、ところが、だ。よく見てみると、その山を登頂しようとしている小さき者たちがいる。しかも、それは妖精らしい。

 

『最後の三角形』
「ホームレスでヤク中の俺」。小柄な老婆、ミズ・バークレーの世話を受け、ガレージ暮しを始める。失くなったパートナーの銃を見せられる。彼女から一緒に散歩をしてほしいと言われる。建物にあった「赤いしるし」。彼女は、『最後の三角形』と呼んでいた。町中にあるそのしるしを彼に調べてほしいと。『最後の三角形』と魔術の関係とは。

 

『星椋鳥の群翔』
「ペレグランの結び目」と呼ばれる美しい都市が舞台。そこでは何年かおきに惨たらしい殺人事件が起きていた。犯人は「野獣」と呼ばれていた。50歳の「私」が捜査に当たる。星椋鳥の巨大な群れが天空を行き交っている。「野獣」の正体はわかったが…。

 

『エクソスケルトン・タウン』
舞台は蟲の惑星。ここで地球人たちはなぜか古い映画と蟲たちの糞とを物々交換している。糞にはとてつもない催淫効果があるのだ。地球人はエクソスケルトン・ギア(外骨格型装備)が進化したエクソスキンと呼ばれる全身スーツを身にまとう。それが、蟲たちに人気の高いハンフリー・ボガードモデルやジェーン・マンスフィールドモデルなどがあり、本人に瓜二つという。


『ロボット将軍の第七の表情』
ロボット将軍は、『スター・ウォーズ』に出て来るC-3POを邪悪にした感じ。個人的見解。かつては最先端のAI搭載の英雄だったが、時は流れて、自ら死を望んだが。


ああ、一度、作者の頭の中を覗いてみたい。3作目の短篇集も、ぜひぜひ!!


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