宇宙犬クローカとともに消えた宇宙飛行士イワン・イストチニコフ。実は…

 

スプートニクスプートニク協会+ジョアン・フォンベルク 菅啓次郎訳を読む。

 

ソユーズ2号について知っている?では、イワン・イストチニコフはご存知かな?「知っている」と答えたあなたは、かなりの宇宙飛行士マニアかロケットおタクだ。

 

本作は、ソ連アメリカが激しく宇宙開発競争を展開していた時代、ソユーズ2号に搭乗し、宇宙犬クローカとともに消えてしまったイワン・イストチニコフ大佐の生涯を克明に綴ったものである。

 

なあんて真っ赤な偽(フェイク)ノンフィクション。なんだけど、微に入り、細に入りよくできている。肖像画、ロケットの写真、切手コレクション、イワン・イストチニコフの幼年時代に描いたとされる絵画、授与された勲章、結婚式の写真、宇宙飛行士の同僚との写真、宇宙飛行に関するメモなど、圧倒的な資料で、フィクションだとわかっているのに、いつの間にか、書いてあることが、真実のように見えてくるから不思議だ。

 

「嘘も繰り返しつくと本当に思えてくる」。映画で言うなら、『ブレアウィッチプロジェクト』のようなリアリティのあるフェイクの丹念なまでの重なりである。アーティストである著者の術中にはまってしまった。

 

荒俣宏氏の解説によると、作者は、『旧ソ連宇宙計画史』オークションで、山のように出品されていた古写真、身分証明書などから本作のコンセプトをひらめいたようだ。ロシアというのが、いまだにどんな大事件が隠蔽(いんぺい)されているかわからないしね。

 

特筆すべきは、イワン・イストチニコフ大佐と宇宙犬クローカとの記念すべき宇宙遊泳のシーン。なんともいえずチャーミングである。


図版だけでも、楽しい。ロシア構成主義にかぶれていた頃を思い出させた装丁も素晴らしい。ちなみに本物のソユーズ2号は、無人宇宙船とか。当然、犬も乗っていなかった。


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