『突囲表演』残雪著 近藤直子訳を読む。残雪は短篇集など何冊か読んだことがある。
「五香街(ウーシャンチェ)」にやって来たX女史。夫と「煎り豆屋」を開く。
何せ見慣れたメンツの街にニューフェイスは新鮮。
人妻で子どものいるX女史は年齢不詳。
年齢がいくつかで賭けになるくらい街の人々の間で盛り上がる。
彼女は独特の魅力があって、ぶっちゃけ男好きのするタイプらしい。
24時間衆人環視状態なのにX女史はいい意味でも悪い意味でもオープン、奔放。
古い言葉ならフリ-セックス信奉者。
「五香街(ウーシャンチェ)」の住民は彼女の思うつぼ。
代り映えのしない街が彼女の出現により結果、濃密な人間関係が攪乱される。
あること、ないこと、雨あられの誹謗中傷をはねつけて
自分の道をまっしぐらに生きる。自立、自律した女性。
固定化した街「五香街(ウーシャンチェ)」は、たぶん中国の暗喩ではなかろうか。
街の掟にそぐわない異分子は危険物として排除する。
「訳者あとがき」によると「性交」などの「性描写は大幅に削除」されたそうだが、
作者はあえてそれを見込んだ上で性描写を盛り込んだのだろう。
X女史、Q男子。カフカの『審判』のヨーゼフ・Kあたりから来たのかな。
斎藤美奈子の解説では、日本の作家だと「笙野頼子を連想した」と。
まともに読んだことがないからなんとも言いようがない。
ぼく的には倉橋由美子の『スミヤキストQの冒険』。
報告書や調書風の体裁(章立て)。
懐かしのヌーヴォー・ロマンとかアンチ・ロマンとか。そんな感じ。
話の合間に「筆者」が登場して解説をするメタフィクションとも。
最初は通常の小説の形式とは異なって読むのに戸惑ったが、
ああこれは各登場人物の1人語りで構成される演劇のようなものかと思ったら、
楽に読めるようになった。
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