お厚いのはお好き?

 

ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ

ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ

  • 作者:乗代 雄介
  • 発売日: 2020/07/18
  • メディア: 単行本
 

 

『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』乗代雄介著を読む。

版元は国書刊行会。重量級の本を出す出版社ならチャンピオン。
最後まで読めるかと思ったら、わりかしすぐに読めてしまった。
分厚い本は、3部構成。

 

1部:「創作」
著者のブログに掲載していた膨大な作品をチョイス、「全面改稿」したもの。
ミュージシャンでいうところのデモ音源のようなものか。おいおいどうしたと思いつつ読み出す。ウンコ、オシッコ、チンコ。
子どもの好きな3点用語が多いような気がする。くだらないっちゃあくだらない。でも、嫌いじゃない。どの程度手を入れたかわからないが、
奇想と笑いと疾走感。作者のへんてこりんな世界がある。好きか嫌いか、どっちか。まともに受けてはいけないエンタメ化したkinky(キンキィ:ひねくれ)純文学。デモ音源は撤回。

 

2部:長編エッセイ「ワインディング・ノート」
著者の読書ノート。柄谷行人サリンジャー太宰治スタインベック宮沢賢治など気になる作家の部分を引用して感想を書いている。
いわば創作のためのノート。お笑いでいうところのネタ帳。これは著者の文学メソッドをバラしたような内容。最もひかれたのは、大学のゼミの担当教授だった田中優子教授(現総長)からのメール。実に的確。

 

「あなたの文章を読むたびに「めまい」がします。―略―あなたの文章は読む者の定点を揺らがせるのです。そして次に、思考の渦に投げ込む。―略―ほめても意味がない。ほめた結果、あなたが「文章で食べられるかもしれない」と思ってしまうことも、恐れています。―略―しかし、出版界で「商品」として売れるかどうかは、別問題なのです」

 

著者の作品を読んだときの不思議な感覚。うまく言えなかったが、そういうことなのか。また教授は著者の作風を江戸時代の画家・曽我蕭白にたとえている。若冲ではないそうだ。画像を貼るが。なるへそ。

 

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3部:書き下ろし小説「虫麻呂雑記」
阿佐美景子ちゃんシリーズで舞台となった千葉・茨城県。本作は著者と思われる「私」とデリヘル嬢の「利衿江」が市川市の真間で出会う。
私は彼女に「真間の手児奈」伝説を話す。手児奈霊神堂の参道の看板に記された高橋虫麻呂長歌を読む。わかりやすく彼女に解説する。
なんだか一泊二日お忍び温泉旅行エロ動画風。メールアドレスを交換して虫麻呂の足跡をたどって一人旅が続く。数か月後の八月、彼女から連絡が
来る。なぜか高萩駅で待ち合わせをする。海水浴場がある。水着を持ってこなかった彼女は潔くほぼ全裸で泳ぐ。虫麻呂を追って1人で筑波山へ。うがった見方をすれば、1部が実践編、2部が理論編、3部が応用編かな。ま、どっから読んでもいいんだけど。


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おまけ。タイトル名になったキンクスの楽曲を。


The Kinks - Mick Avory's Underpants (HQ)

 

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