男の闇日記ならぬ病み日記 ほか

 

 

『オルラ/オリーヴ園 モーパッサン傑作選』モーパッサン著  太田浩一訳を読む。
モーパッサン、初読かも。虫食い読み、世界文学。


ラテン語問題」「オルラ」 「離婚」 「オトー父子」 「ボワテル」 「港」 「オリーヴ園」 「あだ花」8篇の短篇集。何篇かのあらすじや感想を。

 

「オルラ」
男の闇日記ならぬ病み日記。日増しに心の病は悪化していく。気晴らしに「モン=サン=ミシェル」へプチ・バカンス。頑張って「岩山」に登ったりする。旅を終えた頃は良くなったかに思えたが、再び、元の状態に。陰々滅滅なのは家が取り憑かれているから。誰かが「私」の水を飲んでいる。わからない。気分転換で今度はパリへ。観劇などを楽しむ。帰宅。庭を散歩して「薔薇の花壇」で開花した薔薇がちぎられ、「宙に浮いている」。男は誰かを「オルラ」と命名する。「新しい生き物」だと。男は「オルラ」を殺そうとする。すべては狂人の「妄想」なのか。著者が見えたものをそのまま書いたのか。ラブクラフトの「インスマウスの影」を彷彿とさせる。

 

「離婚」
離婚訴訟で名高い弁護士のボントランの元へ「新しい依頼人」が現われる。男は公証人をしていた。新聞広告で「250万フランの持参金つき結婚希望の女性」を知る。彼はひどい金欠病で脳裏に「250万フラン」がちらついて離れない。男は女性に引き合いがあったことを手紙で知らせ事務所に呼ぶ。レストランで夕食、女性の身の上話なども聴く。酔った勢いで彼女を口説き、一夜をともにする。責任を取るとかで女性に求婚。結婚する。貧乏暮らしとはおさらばした彼は公証人を辞し、悠々自適。結婚生活は万事順調だったが、妻が無断外出する日がある。気になった男は後を追うと。なんと彼女には…。あ、彼女は宇宙人とかそういうオチではござんせん。心温まるヒューマン・コメディ。


「オリーヴ園」
ヴィルボワ神父は「プロヴァンス地方の小さな漁港」の村で「20年間司祭」をつとめていた。かつてはイケメンのヴィルボワ男爵としてブイブイいわせていた。若い女優に惚れてしまい入れあげる。彼女は妊娠する。でも父親はヴィルボワ男爵でないと。ショックを受けてさまよう。信仰のみが心の傷を癒してくれ、「聖職者」の道へ。

そこへ汚らしい若者が。別れた女性の子どもだと名乗る。事実を知ったヴィルボワ神父。それにしてもろくでなしの若者。諍いの挙句。ほろ苦いヒューマン・コメディ。

 

「あだ花」
美貌で知られる「マスカレ伯爵夫人」。伯爵は世間的には「申し分のない夫、よき父親」だった。しかし、夫人はそうは思っていなかった。ある日、長年積もった思いを遠慮なく夫に言う。「わたしはただ、11年前からあなたに押しつけられている、出産という耐えがたい責め苦から解放されたいだけなのです」「30歳で、子どもが7人もいるのですよ」など厳しい言葉が。現代にもまんま当てはまる。ワンオペ育児とか。
さんざ話してから恐ろしい言葉爆弾を放つ。うろたえる夫。まさか妻が裏切ったとは。6年間苦しめられる伯爵。真実を打ち明ける夫人。しかし、疑心暗鬼は止まらない。男社会に負けるものかと抗う夫人。衰えぬ美貌は女の意地か。著者が病気でなければ面白い長篇になった気がする。ある意味、フェミニズム文学のさきがけともいえないだろうか。


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