『ドラゴン・ヴォランの部屋-レ・ファニュ傑作選-』の過去レビュー、改訂、加筆

 

 



『ドラゴン・ヴォランの部屋-レ・ファニュ傑作選-』J.S.レ・ファニュ著 千葉康樹訳を読む。平井呈一訳以来の「半世紀ぶりの」アンソロジーだとか。

 

『ドラゴン・ヴォランの部屋』がメインなのだが、
これはミステリーとしてなかなかの出来栄え。

ひょんなことから遺産相続かなにかで小金持ちになったイギリスの若者。
貴族の子弟を真似て、グランドツアー気取り。おのぼりさん感覚でパリ探訪。
その途中で美貌の伯爵夫人と恋に堕ちる。夫はかなり年上。
『ドラゴン・ヴォラン』に宿を取る。
『ドラゴン・ヴォランの部屋』には、何か出るそうだが。


開かれた仮面舞踏会のトリックは、
謎解きに疎いぼくもひょっとしてと思ったが、はずれ。

まんまとだまされた青年。全財産ばかりか命までも盗られるはめに。
最後の謎明かしには、なるほどと。
各場面がきちんと書かれていて、オペラとか舞台とかでもいい感じ。

 

コン・ゲームというか詐欺師ミステリーの先駆け的作品。
今読んでもすっげえ楽しい。

 

短編では『ローラ・シルヴァー・ベル』がイチオシ。実は怖い民話風話。
ローラ・シルヴァー・ベルは村でいちばんの器量よし。深い森から現れ出でたる怪しげな「大きな黒い男」。自称若殿と名乗るが。ローラに一目ぼれ、求婚する。育ての父親も彼女を取り上げた産婆のカークばあさんも反対する。
ばあさんは魔術の使い手でもあり、何とか恋の成就を阻止しようとする。ところが、ローラはまんざらでもなく男の元へ出奔。出産する。生まれた子ども、これが…。

 

『ティローン州のある名家の物語』もなかなかで。
名家グレンフォーレン家に嫁いだファニー。
夫から開かずの間には入らぬようにと釘を刺される。
彼女が自分の寝室に戻ると中高年の女性がいた。
グレンフォーレン卿の妻だとファニーが言うと女性はキレ出す。
私の方が妻だと。自称妻というこの女性、がエキセントリックというか病的。
ついには剃刀でファニーの命を狙う。
裁判で死刑になったはずなのだが、グレンフォーレン卿の元に現われる。そして…。


昔、『マリ・クレール』に連載していた筒井康隆のエッセイで
勝手に自宅の庭を掃除して筒井の妻を気取り、隣近所に挨拶していたとかいう見知らぬ女性の話を思い浮べた。

 

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