『資本論』の逆襲

現代思想2004年4月臨時増刊号 総特集=マルクス 青土社 Amazon 柄にもなくマルクス、マルクス兄弟じゃないよ、ヘイ、ブラザー。 「現代思想4月臨時増刊マルクス」より、最もひかれた論文から一部を引用してみる。 「景気循環のたびに資本の緩衝装置として遣い…

濃厚で芳醇な「瞬篇小説」

夏至遺文 トレドの葵 (河出文庫) 作者:塚本 邦雄 河出書房新社 Amazon 『夏至遺文 トレドの葵』塚本邦雄著を読む。 短篇小説というと、川端康成の掌の小説、星新一のショートショートなどがある。最近では北野勇作の100字小説なんていうのもある。作者は、「…

人がまちがえるのは、脳がまちがえるからだ

まちがえる脳 (岩波新書) 作者:櫻井 芳雄 岩波書店 Amazon 『まちがえる脳』櫻井芳雄著を読む。 ヒューマンエラーを完璧に防ぐことはできない。だって、大もとの脳がまちがえるから。しかし、このまちがいが、災い転じて福となす。その最大の福が独創的なア…

愛は幻―「本能が壊れた動物である人間は幻想する動物である」

唯幻論物語 (文春新書) 作者:岸田 秀 文藝春秋 Amazon 超々久しぶりに岸田秀の本を読み出す。 『唯幻論物語』。自己分析、自己批評。私小説的味わい。この本は小谷野敦へのアンチテーゼ本として書かれたそうだ。出だしからして、岸田節、バリバリ全開。精神…

英雄と悪漢

ピカレスク 太宰治伝 (文春文庫) 作者:猪瀬 直樹 文藝春秋 Amazon 『ピカレスク 太宰治伝』猪瀬直樹著を読む。 太宰というと、相原コージの「コージ苑」に出て来た、憂い顔の和服姿の腺病質の男を思い浮かべてしまう。そのコマには、お約束のように筆文字で…

ケアで文学を批評する、あ、映画もね

世界文学をケアで読み解く 作者:小川 公代 朝日新聞出版 Amazon 『世界文学をケアで読み解く』小川公代著を読む。 これまでケアについて書かれた本が理論編だとすると、この本は展開編、応用編ってとこかな。作者は内外の作品(小説から映画まで)からケアマー…

「農業にも兵器にも使える技術」

戦争と農業(インターナショナル新書) (集英社インターナショナル) 作者:藤原辰史 集英社 Amazon 『戦争と農業』藤原辰史著を読む。 『歴史の屑拾い』 藤原辰史著で著者が「戦時下、トラクターが戦車になった」という一文があって、もう少し深く知りたいと…

趣向を凝らした数々の短篇に酔いしれる

最後の三角形 ジェフリー・フォード短篇傑作選 (海外文学セレクション) 作者:ジェフリー・フォード 東京創元社 Amazon 『最後の三角形』ジェフリー・フォード著 谷垣暁美編訳を読む。 幻想小説、SF小説、怪奇小説、それぞれの枠をくぐり抜け作者が自由自在に…

宇宙犬クローカとともに消えた宇宙飛行士イワン・イストチニコフ。実は…

スプートニク 作者:ジョアン フォンクベルタ 筑摩書房 Amazon 『スプートニク』スプートニク協会+ジョアン・フォンベルク 菅啓次郎訳を読む。 ソユーズ2号について知っている?では、イワン・イストチニコフはご存知かな?「知っている」と答えたあなたは、…

短命に終わったワイマル文化の全貌とは 

二十世紀思想渉猟 (岩波現代文庫) 作者:生松 敬三 岩波書店 Amazon 『二十世紀思想渉猟』生松敬三著を読む。 第一次世界大戦後のドイツ。ワイマル共和国が樹立する。時は1920年代。俗にいうところのワイマル文化が花開く。 カンディンスキー、グローピウ…

意味がないことに意味がある。ナンセンスには、センスが要る

ハルムスの世界 (白水Uブックス) 作者:ダニイル・ハルムス 白水社 Amazon 『ハルムスの世界』ダニイル・ハルムス著 増本浩子訳 ヴァレリー・グレチュコ訳を読む。 なんだかロシア文学を読むことが多い今日この頃。「ロシア文学」っていうと、暗い、重い、長…

流行は野火のように広がる

ティッピング・ポイント―いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか 作者:マルコム グラッドウェル 飛鳥新社 Amazon 『ティッピング・ポイント いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか』マルコム・グラッドウェル著 高橋 啓訳を…

脳のOSが異なるそうだ、大人と子どもは

子どもの脳が危ない (PHP新書) 作者:福島 章 PHP研究所 Amazon 『子どもの脳が危ない』福島章を読む。 残虐さを増す一方の少年犯罪など、未熟化、荒廃化する子どもの心、たぶん。子どもがキレる原因は親の躾(しつけ)や先生の指導に問題があるのではなく、…

おめでとうに、おめでとう

おめでとう(新潮文庫) 作者:川上弘美 新潮社 Amazon 『おめでとう』川上弘美著を読む。 困る、困る、実に、困る。作者の小説は、読む人を骨抜きにしてしまう。こんなにシンプルで、こんなにあっさりしていて、読んでいる最中は、ふんわかしていて、たちま…

おちこんだりもしたけれど、モスクワはげんきです

幸福なモスクワ (ロシア語文学のミノタウロスたち) 作者:アンドレイ・プラトーノフ 白水社 Amazon 『幸福なモスクワ』アンドレイ・プラトーノフ著 池田嘉郎訳を読む。 世界初の社会主義国家ソ連の象徴とも言うべき首都モスクワ。孤児の少女は、その都市にち…

バタイユ 1978 (5)

エロティシズム (ちくま学芸文庫) 作者:G・バタイユ 筑摩書房 Amazon 『内的体験』をぼくは1978年の夏に読んだ。大学の講義の最中に。図書館で。ジャズを聴きながら。コピーライターの学校の冷房の効きすぎた、だだっ広い部屋の中で。東北線の急行列車の中で…

バタイユ 1978 (4)

内的体験: 無神学大全 (河出文庫 ハ 4-5) 作者:ジョルジュ・バタイユ 河出書房新社 Amazon 笑い。バタイユは笑いを、エロティシズムと同じように消費とみなしている。『内的体験』の序文で次のように述べている。 「笑いの分析が、共有の厳密な主情的認識の…

屑拾いの視線で表の歴史が捨てたものを丹念に拾うこととは

歴史の屑拾い 作者:藤原辰史 講談社 Amazon 『歴史の屑拾い』 藤原辰史著を読む。 「歴史は、危機の時代の勝者や生存者によってしか描かれてこなかった。危機の時代の敗者や死者は、歴史を語る口を封じられる。しかし、戦争の勝者しか歴史を書けない、という…

言葉、言霊、拡散、9変化(へんげ)

祝福 作者:高原 英理 河出書房新社 Amazon 『祝福』高原英理著を読む。 『リング』や『らせん』では、呪いはビデオテープで伝播・感染したが、この作品ではリストカットをする少女がブログに書いた言葉。それが、なぜか、伝播して変化(へんげ)、拡散していく…

ソーシャルネットワーキングの科学―「弱い紐帯の強さ」

人脈づくりの科学: 「人と人との関係」に隠された力を探る 作者:安田 雪 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 Amazon 一寸興味があったので『人脈づくりの科学 「人と人との関係」に隠された力を探る』安田雪著を読む。 人脈づくりなんていうと、ほら、バ…

聞く耳をもて。これがなければ、話は通じない

なぜ「話」は通じないのか―コミュニケーションの不自由論 作者:仲正 昌樹 晶文社 Amazon 『なぜ「話」は通じないのか―コミュニケーションの不自由論』仲正昌樹を読む。 おおっ、こりゃ、正真正銘のバカの壁だ。つーか、バカの人垣とでもいうのか。 講演であ…

「健全な懐疑主義はむしろ今の社会を生きていくために必要なスキルではないだろうか」

疑似科学と科学の哲学 作者:伊勢田 哲治 名古屋大学出版会 Amazon 『疑似科学と科学の哲学』伊勢田哲治著を読む。 「悲観的帰納法」が気に入ったので引用。 「非常にうまくいっていた理論1は偽であることが判明した 非常にうまくいっていた理論2は偽であるこ…

黒歴史を明かしてはいけない

その謎を解いてはいけない 作者:大滝 瓶太 実業之日本社 Amazon 『その謎を解いてはいけない』大滝瓶太著を読む。 主人公は名(迷)探偵・暗黒院真実と押しかけ助手の女子高生・小鳥遊唯。実は、作家でもある。二人が次々と起きる不可解な殺人事件に挑む。 ラ…

三人寄れば毒が生まれる。それは、なぜ?

サークル有害論 なぜ小集団は毒されるのか (集英社新書) 作者:荒木優太 集英社 Amazon 『サークル有害論-なぜ小集団は毒されるのか-』荒木優太著を読む。 そも「サークル」は「ロシアに由来する小集団」のことだそうだ。知らなんだ。 「三人寄れば文殊の知…

『君たちはどう生きるか』を見た

宮崎駿監督『君たちはどう生きるか』を見た。久しぶりの映画館。 見た人の評価はsnsなどでは賛否両論。ネタバレしないでこの作品の魅力を伝えるのは多少骨かも。 一言でいうなら、私小説というカテゴリーがあるが、私アニメーション。しかし、そこには過剰な…

変わり続けた晩熟の哲学者

ホワイトヘッド―有機体の哲学 (現代思想の冒険者たち) 作者:田中 裕 講談社 Amazon 『ホワイトヘッド-有機体の哲学- (現代思想の冒険者たち)』 田中裕著を読む。 名前は知っていたが、詳しいことは知らない。なんで、入門書としてこの本をチョイス。 「ケ…

粘菌、因縁、南方曼荼羅

南方熊楠 地球志向の比較学 (講談社学術文庫) 作者:鶴見 和子 講談社 Amazon 『創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク』の序章で粘菌の話が出て来る。きわめて興味深い事例なのだが、その前に、粘菌といえば、どうしても知の巨人南方熊楠…

ブランドは、守るだけではなく、差異化するだけでもなく

ブランドのデザイン 作者:川島 蓉子 弘文堂 Amazon 昨夜と今日の午前中で『ブランドのデザイン』川島蓉子著を読む。 たまには、本業関係の本も紹介しないと。きれいなブックデザインにひかれた。 サントリー「伊右衛門」「ウーロン茶」、キユーピーマヨネー…

どこかにありそうで、「どこにもない場所」を書く、読む

猫の木のある庭 (河出文庫) 作者:大濱 普美子 河出書房新社 Amazon 『猫の木のある庭』大濱普美子著を読む。 西洋の怪談では幽霊やお化けは古城や貴族の古い館や別荘、教会など住まいに憑くといわれる。住まいの主が変わる度、小規模、大規模の改修、リフォ…

挫折の美学―真の密告者は誰なのか

『密告』 密告 作者:真保 裕一 講談社 Amazon 『密告』神保裕一著著を読む。 主人公萱野は、高校時代はラガーとして花園に出場したことがあった。しかし、故障により、大学の推薦枠から外れてしまう。そこで挫折を味わう。大学進学を断念して警察官となるが…