言葉、言霊、拡散、9変化(へんげ)

 

 

『祝福』高原英理著を読む。

 

『リング』や『らせん』では、呪いはビデオテープで伝播・感染したが、この作品ではリストカットをする少女がブログに書いた言葉。それが、なぜか、伝播して変化(へんげ)、拡散していく。まさに言霊をテーマにした9篇の連作短編集。何篇かのあらすじと感想を。

 

リスカ
成瀬美礼(なるせみれい)、高校中退。趣味はリストカットとブログにポエムを書くこと。まれな外出で痴漢に遭う寸前の女子大生アサミを結果的に救う。何もかもが対照的な二人。リストカットは止められない。思いつきで宗教の秘儀めいたことを書く彼女のブログになぜか多くの人が悩みを相談する。「先生」と呼ばれるように。でも、それは誤解。イタい世界。状況はまったく似てないが、札幌首ちょんぱ事件を想像した。

 

『正四面体の華』
「わたしは満ち足りているけれど、不要なものがひとつある。それは自分の心。 雪御門 智」作者は18歳の時亡くなり、遺族が彼女の作品『零度の記憶』を刊行する。ライターである「私」が、作品と作者の謎を探る。核心に迫り、謎は解けるのかと思いきやさらに深くなる。


『目醒める少し前の足音』
美礼の書いたブログに多くの人が共鳴、その一人の資産家が設立したカルト教団「イェリメ教団」は彼女の言葉をご宣託に。そのオンライン宗教団体の教主に選考された布由子。

 

『縞模様の時間』
1960年に夭折した詩人・大蔦紀重。詩論は残したが、詩は残っていない。彼の詩は朗読、ヴォイスパフォーマンスによるものだったからだ。ところが録音テープが残っているらしい。さらに死んだはずの大蔦紀重は生きていたというのだが。


『隙間の心』
「街には無数の隙間がある。そのすべてが自分の居場所だ。そして隙間意外に自分の居場所はない」冒頭のフレーズが素晴らしい。大学で考現学サークルに所属していた二人が文学賞の授賞式で再会する。そして隙間物件を求めて撮影していた当時を振り返る。
これが、ほんとのスキマスイッチ!?


言霊について折口信夫は、こう述べている。このどんぴしゃの引用部分のみで、この本のレビューになるのではないだろうか。

 

「昔の人々も、言葉と言ふものに精霊がある、言葉に霊魂があると、かう考へた筈だと思ひます。つまり、日本の言葉で申しますと「言霊」と申します。言葉に精霊があり、それが不思議な作用をすることを、さきはふ或はさちはふと申してをります。所謂「言霊の幸サキハふ国」とは、言語の精霊が不思議な作用を表す、と言ふ事です。つまり、言葉の持つて居る意義通りの結果が、そこへ現れて来ると言ふ事が、言霊の幸ふと言ふ事です。つまり、さう言ふ事を考へて来るのは、やはり根本に、言葉の物を考へさせる力を考へ、更にそれからまう一歩、その言語の精霊の働きと言ふものを、考へて来たのです。つまり、我々の周囲マハリにある物が、皆魂を持つてゐるやうに、我々の手に掴む事が出来ない、目に見る事も出来ないけれど、而も自己の口を働かしてゐる言葉に、精霊が潜んでゐるのだ、と言ふ風に考へた訣です。(『国語と民俗学 二 言語伝承』折口信夫より)」

 

祝いと呪いは、字面が似ている。意味は、真逆だが。保育園に通っていた頃、『名探偵コナン』などにかぶれていた子どもは、「お祝い会」を「おのろい会」と呼んだことを思いだした。

 

装幀が水戸部功。この人が装幀している本は、ぼく的には当たり!が多い。

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