屑拾いの視線で表の歴史が捨てたものを丹念に拾うこととは

 

 

『歴史の屑拾い』 藤原辰史著を読む。

 

「歴史は、危機の時代の勝者や生存者によってしか描かれてこなかった。危機の時代の敗者や死者は、歴史を語る口を封じられる。しかし、戦争の勝者しか歴史を書けない、という通俗的な見解と私の見解は異なる」

 

いわば屑拾いの視線で表の歴史が捨てたものを丹念に拾うことで新たな発見や気づきを得るかもしれない。作者とともに屑拾いする気分で読み進むと、確かにそのようなものに出会えた。何点か、紹介。

 

1章 パンデミックの落としもの

スペイン風邪で、地球上の人口の50人に1人か2人が亡くなったと言われている。それほどの悲劇であったのにしっかり記憶されてこなかったのは、おそらく北野さんの言うとおり、死が今よりももっと日常的なできごとだったこともあるだろう。今の世界において―略―死が病院に囲い込まれ、日常から遠ざけられているからだろうか。そしてそのために、新型コロナウィルスのインパクトも、いっそう強く感じられるのかもしれない」

 

マスクをする人は減ったが、新型コロナに罹る人は増えているというのだが。

 

4章 一次資料の呪縛

論文などを書くとき参考にする資料は一次資料からといわれている。二次資料は、一次資料を基に集約など加工がされていて、場合によっては正確性に欠けるとも。


当然、作者も勇んでドイツへ出かけ、「ナチス農業に関する資料」、もちろん一次資料、を集めに連邦文書館を訪れる。ところが、だ。膨大な資料の山に呆然とする。

 

「できりかぎり多くの資料と歴史研究を読み込み、出来事の文脈を探らなければならない。それができてようやく一次資料の「手触り」を保ちながらの歴史叙述の方法を探り続けるという困難な道への扉を、開くことができるのである」


7章 歴史と文学 『アドルフに告ぐ手塚治虫  『蝦夷地別件』船戸与一

作者はこの漫画に感化されたと。

 

「物語の壮大さ―略―架空の設定にある。ヒトラーユダヤ人の血を引くという、当時はまだ否定されていなかった俗説を元に物語が組み立てられていることだ。さらに、手塚はヒトラーを自殺で終わらせない」

「「架空の設定」が、その時代にナチスに喧伝された「人種主義」の脆さを浮き彫りにした。それは、数学の図形の問題で、補助線を引くことが問題の全体像を浮かび上がらせる効果に近い」

 

作者を同じ思いにさせる作品が『蝦夷地別件』船戸与一だそうだ。

 

蝦夷地に来た和人たちの横暴さに我慢できなくなったアイヌの長がポーランド貴族から鉄砲を入手して和人に立ち向かおうした。しかし、鉄砲は入手できなくなったが、長の息子たちが和人を殺害して、長らは殺されるという史実に基づいた歴史小説

 

まずは、『蝦夷地別件』から読んでみよう。

 


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