挫折の美学―真の密告者は誰なのか

 

『密告』

 

 

『密告』神保裕一著著を読む。

 

主人公萱野は、高校時代はラガーとして花園に出場したことがあった。しかし、故障により、大学の推薦枠から外れてしまう。そこで挫折を味わう。大学進学を断念して警察官となるが、天性の運動神経だろうか、射撃の成績が素晴らしく、射撃でオリンピック出場という道が拓ける。しかし、そこには到底かなわぬライバル矢木沢がいて、好きだった女性までも結果的には奪われてしまうこととなる。彼は、汚い手を使い、ライバルをオリンピック出場から蹴落とすが、彼自身、良心の呵責に問われ、成績は最悪、夢は無残にも砕け散る。

 

かつてのライバルが上司という現在の部署。密告という手段で上司にかけられた疑惑。疑いの目は、当然萱野に。彼は、その疑惑を晴らすために奔走する。すると、警察の癒着など問題が次々と浮かび上がる。それを阻止しようとする警察組織。

 

この作者の作品は、どれも、綿密な取材に基づいているらしいが、本作も、昨今話題の天下りや利権など警察が隠蔽しておきたい部分を描いている。それでいて、主人公以下登場人物がそれぞれ魅力的。

 

そこまでやらなくてもいいぐらい、愚直なまでに真実の解明というのか、自分のプライドや無実を明かすために行動する主人公。かつては輝いていたが、挫折を何度も味わうことにより、すっかりショボくなってしまった男が、あることをきっかけに、再び、自身の闘争本能に火をつける…。いやあ、本格的なハードボイルド。人間関係のしがらみや伏線のはり方も文句なし。奥行きのある作品に仕上がっている。

 

カンの良い人ならば、犯人は、ストーリーを半分過ぎたあたりでわかるかもしれないが、きっちりと着地も見事なもの。まるで映画のようなラストシーンがいいんだけど、と思ったら、やはりある名画へのオマージュだったようだ。

 

ジェームズ・エルロイあたりに陶酔している人に、ぜひ、一読をおすすめする。


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