僕には向かない職業―主人公はロサンゼルスに住む若き私立探偵

 

 

 


さて、ボリス・ヴィアンである。作家、ジャズトランペッター、歌手、画家、俳優、などその多才ぶりは、おフランス好きの少年・少女、元少年・少女にとっては胸を焦がす永遠のアイドル的存在である。

 

彼の著作というと決まり文句のように『うたかたの日々』や『心臓抜き』、『墓に唾をかけろ』あたりが挙げられるが、僕は『醜いやつらは皆殺し』(ボリス・ヴィアン全集12)を第一に取り上げたい。

 

これはいけます。『うたかたの日々』で挫折した人もすいすい読めます。久しぶりに再読してみたが、「僕」の一人称で書かれた文体は、全然古びていない。文章の一部を引用して作者当てクイズをしたら、きっと村上春樹とかポール・オースターとか答える人が多いんじゃないかな。

 

主人公はロサンゼルスに住む若き私立探偵、これはボリス・ヴィアンが敬愛してやまない名探偵フィリップ・マーロウへのオマージュだろう。一服盛られたり、殴られたり、捕まったり、脱出したり、迫られたり、次から次へと主人公が事件に巻き込まれるというお約束のストーリーは、アメリカのミステリーやSFに造詣の深い作者ならではもの。

 

太平洋の島で美男・美女の人工人間を造り出し、世界征服をもくろむドクターや絶世の人工美女、魅惑的なガールフレンドなどのキャラクターも、あえて類型的で楽しい。

訳者後書きによると彼はミステリーでは、レイモンド・チャンドラー、SFではヴァン・ヴォークトのファンで翻訳までしたとのこと。また、本作の方がイアン・フレミングの『007号』シリーズより先に発表されていたようだ。

 

オースティン・パワーズ』や『007カジノロワイヤル』などの映画が好きな人には、文句なしに面白く読めるだろう。

 

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