「共にいて不幸なら離れるしかない」

 

 


『愛情という名の支配 家族を縛る共依存信田さよ子著を読む。

 

作者を知ったのは、晶文社のホームページの今“プチ家出のすすめ”一生との対談だった。その対談内容がとてもするどくて、著作を読んでみたいと思った。『アディクションアプローチ』が欲しかったんだけど、なくって、本書を手にした。結果は、うーむ。である。

 

とっても内容が重たい。重たいじゃないか。ひしひし伝わるか。であるからして、一章ごとにゆっくりと読むことにした。各章を読み終えるたびに、頭の中に、いろいろなものがふつふつと沸いて来るのだ。

 

共依存」とは「不幸でいながら離れられない関係」のことを意味する。「共依存症」という言葉は知らなかったが、アルコール依存症の夫を助長させるのは、必死に耐えて介抱する妻の存在だというのは、知っていた。

 

実際、ごく間近で見たことがある。夫は口八丁手八丁のやり手経営者。バブル全盛の頃は、それこそイケイケドンドンで商売繁盛。本宅とは別にオフィスのそばにマンションを借りて別宅にし、そこに若い愛人と棲んでいた。

 

社員を増やし、オフィスを一等地に借り替え、勝負に出たが、会社がうまく回らなくなってくると酒に逃げ込んだ(作者の言によれば、これは適切な表現ではないそうだ)。彼の父親は定職に就いていず、やはり酒に溺れていたことがあったようだ。紛れもなく彼はアダルトチルドレンだったのだろう。彼の妻は、夫の快方を信じて辛抱強く待つのみだった。

 

この話のオチは、彼は会社の経営から離れ、療養に専念。まもなく会社が潰れると、幸いにして症状は良くなり、現在は一滴もアルコールを口にせず、元気に働いているそうだ。メデタシ、メデタシ。たださんざ迷惑をかけられたかつてのスタッフは、内心忸怩たる思いは拭い切れないようだ。そりゃ、そうだろ。

 

共依存アルコール依存症の夫と妻に限定されるのではない。「摂食障害の娘とその母、教育ママと不登校の子、ギャンブル依存症の夫とその妻…」と枚挙に暇がないほどだ。

 

親子の共依存では「あなたのために」という愛情の錦の御旗を振りかざし、子どもをがんじがらめにしていく親を挙げている。その挙げ句、子どもは「パラサイトシングル」になるのだろう。

 

夫婦の共依存では「殴る夫、殴られる妻の関係」にありながら、「私にはあなたしかいない」とまたもや愛情印の御旗を虚しく振り続ける妻。作者は、自分が主役で人生を生きなさいと優しく諭している。

 

完璧を求めたり、常識にとらわれがちな妻(母親)ほど共依存になりがちで、いい加減、楽に楽しく生きることをすすめている。たとえば「押しつけの母性愛は児童虐待につながる」「母性愛という常識には縛られないようにしよう」など。これは、夫(父親)にも全く同じことが言えるわけで、なんだかとても救われる思いがした。

 

果たしてこのレビューで本作の魅力が伝わったかどうか甚だ心許ないが、大学のエラい先生が書く十年一日が如くといったものではなく、カウンセリングの現場での豊富な臨床例に基づいているので、とても説得性があり、アドバイスもより実践的なものになっている。

 

「共にいて不幸なら離れるしかない」。この一文に賛同した人はぜひ。


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