アンダーグラウンドの人々、シシュフォスの石の如き

 

 

『土台穴』アンドレイ・プラトーノフ著 亀山郁夫訳を読む。


機械工場で働いていたヴォーシェフは、突然、解雇を言い渡される。工員には、機械さながら始業から就業まで自分の持ち場でノルマをミスすることなく的確にこなす能力が求められる。ところが、彼はそのペースとは合わなかった。

 

路頭に迷った彼は仕事を探しに行く。とある共同住宅、その名も「全プロレタリアアート住宅」の建設現場へ。それは建国間もない社会主義国ソ連を担う象徴ともいうべき
プロレタリアアートのための巨大な住宅だった、完成すれば。

 

現段階では土台となる柱を埋め込む用の無数の大きな穴が掘られている。突貫作業ゆえ不眠不休状態。質素な食事。低賃金。掘っている穴のそばのバラックで仮眠する劣悪の環境。背に腹は変えられないと、潜り込もうとする。

 

主人公はヴォーシェフだが、話は彼の視点を通して現場の労働者や技師などの言動や行動が記される群像劇。

 

掘っても掘っても進まない、シシュフォスの石の如き。そこへ現れた労組の議長パーシキンは、作業の遅延を非難して、迅速化を求める。鈍い反応の労働者たち。


土台穴のそばには、なぜか棺桶が。そこでは、農民が暮らしている。って、どんだけ広いんだ?

 

コルホーズ(集団農場)も出て来る。こちらも急ピッチで進められていた。とあるコルホーズ(集団農場)の建設の助っ人に行った仲間のコズローフとサフローノフが殺された。
怒りの余り、チークリンは農民を撲殺する。

 

レンガ工場で母親を亡くした、いたいけな少女・ナースチャをチークリンが引き取る。彼らのアイドル的存在となる。

 

コルホーズ、貧農は歓迎だが、富農は自分の取り分が減るので反対だったのだろう。
先祖代々守って来た土地が取りあげられるのだから。コルホーズに参加しない富農たちは、筏に乗せられ流される。


ともかく一日も早く新しい国、しかも前例のない社会主義国をつくるためには、荒っぽい手段も辞さない。ソローキンほどではないが、やたら人々が虫けらのように殺されるシーンが続く。


土台穴で暮らす人々は、文字通りアンダーグラウンドの人々のことではないだろうか。
半地下の人々よりもさらに下層ないわゆるルンペンプロレタリアート。地上の「全プロレタリアアート住宅」は、いわばエリートプロレタリアート。貧富の差がない共産主義のはずなのに、すでにこのヒエラルキーが。作者は革命以後の新体制の矛盾した理想と現実を徹底的に抉り出す。

 

隠しておきたいことを明るみに出すような作品を書いたのだから、当局から睨まれたのも当然だろう。

 

ふと、ドストエフスキーの『地下室の手記』や『死の家の記録』に通じるなと思った。

 

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