意味がないことに意味がある。ナンセンスには、センスが要る

 

        

『ハルムスの世界』ダニイル・ハルムス著 増本浩子訳 ヴァレリー・グレチュコ訳を読む。

 

なんだかロシア文学を読むことが多い今日この頃。「ロシア文学」っていうと、暗い、重い、長いって印象だが、作者は、不条理、ナンセンス、シュールな笑いが作風で、しかも短いと。


ロシア・アヴァンギャルド」の文字を目にすると、リシツキー、ロドチェンコ、カンディンスキーなどが浮かぶ。彼らはアート系。文学系だとマヤコフスキーとか。そこに著者がいたとは知らなんだ。


突然変異か。試しに何篇か読み出すと、いやいや、これは。好みではないか。1930年代に書かれた作品なのに、なんてナウなんだ。びっくり仰天。訳者解説によると「今日ではハルムスは、ベケットやイヨネスコのような作家たちの先駆者とみなされている」
そうだ。

 

スターリン体制では、インテリゲンチャは、突然、逮捕され、裁判にかけられ、刑務所かシベリア収容所送り。カフカの『審判』のようにだが、こちらは現実。

 

コミュニケーション不全、人間不信にもそりゃなるさ。自ずと人間の本性にも毒づきたくなる。

「ハルムスは、スターリンの恐怖政治のまっただなかにいたのだ。そうでなくても恐ろしい環境で得たこのような認識は、生きる力を失わせるほど恐ろしいものだった。恐ろしすぎて笑わずにはいられないほど、恐ろしいものだったのである。笑いは、死ぬほどの恐怖に直面した人間にとっては一種の自己防衛の身振りであり、発狂寸前にまで追い込まれた思考をいったん停止させることによって、生き延びることを可能にしてくれる。笑いはおそらく、絶望的な状況から抜け出すための、唯一のまっとうな手段なのである」(「ハルムスの作品世界―無意味さの意味」)

 

「思考をいったん停止させる」ことは、フッサールいうところの「エポケー」と近似値ではないだろうか。


作者は詩も書くし、童話も書くが、子どもは苦手、嫌いだったそうだ。それは、たぶんに、彼が子どもっぽい一面があったからだろう。


二度目の逮捕の時、妻の機転で原稿の入ったトランクは友人に渡され、やがてコピーが国外へ。前途を悲観した彼は笑うこともなく。


「ハルムスがソ連国内でも公に認められるようになったのは、ゴルバチョフペレストロイカ以降のことである。ハルムスはあっという間にカルト的な人気作家となった」
(「不条理文学の先駆者ダニイル・ハルムス」より)

 

キングオブコント」あたりでコント師に演じてもらいたいコントもある、マジで。

 

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