2023-01-01から1年間の記事一覧

おちこんだりもしたけれど、モスクワはげんきです

幸福なモスクワ (ロシア語文学のミノタウロスたち) 作者:アンドレイ・プラトーノフ 白水社 Amazon 『幸福なモスクワ』アンドレイ・プラトーノフ著 池田嘉郎訳を読む。 世界初の社会主義国家ソ連の象徴とも言うべき首都モスクワ。孤児の少女は、その都市にち…

バタイユ 1978 (5)

エロティシズム (ちくま学芸文庫) 作者:G・バタイユ 筑摩書房 Amazon 『内的体験』をぼくは1978年の夏に読んだ。大学の講義の最中に。図書館で。ジャズを聴きながら。コピーライターの学校の冷房の効きすぎた、だだっ広い部屋の中で。東北線の急行列車の中で…

バタイユ 1978 (4)

内的体験: 無神学大全 (河出文庫 ハ 4-5) 作者:ジョルジュ・バタイユ 河出書房新社 Amazon 笑い。バタイユは笑いを、エロティシズムと同じように消費とみなしている。『内的体験』の序文で次のように述べている。 「笑いの分析が、共有の厳密な主情的認識の…

屑拾いの視線で表の歴史が捨てたものを丹念に拾うこととは

歴史の屑拾い 作者:藤原辰史 講談社 Amazon 『歴史の屑拾い』 藤原辰史著を読む。 「歴史は、危機の時代の勝者や生存者によってしか描かれてこなかった。危機の時代の敗者や死者は、歴史を語る口を封じられる。しかし、戦争の勝者しか歴史を書けない、という…

言葉、言霊、拡散、9変化(へんげ)

祝福 作者:高原 英理 河出書房新社 Amazon 『祝福』高原英理著を読む。 『リング』や『らせん』では、呪いはビデオテープで伝播・感染したが、この作品ではリストカットをする少女がブログに書いた言葉。それが、なぜか、伝播して変化(へんげ)、拡散していく…

ソーシャルネットワーキングの科学―「弱い紐帯の強さ」

人脈づくりの科学: 「人と人との関係」に隠された力を探る 作者:安田 雪 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 Amazon 一寸興味があったので『人脈づくりの科学 「人と人との関係」に隠された力を探る』安田雪著を読む。 人脈づくりなんていうと、ほら、バ…

聞く耳をもて。これがなければ、話は通じない

なぜ「話」は通じないのか―コミュニケーションの不自由論 作者:仲正 昌樹 晶文社 Amazon 『なぜ「話」は通じないのか―コミュニケーションの不自由論』仲正昌樹を読む。 おおっ、こりゃ、正真正銘のバカの壁だ。つーか、バカの人垣とでもいうのか。 講演であ…

「健全な懐疑主義はむしろ今の社会を生きていくために必要なスキルではないだろうか」

疑似科学と科学の哲学 作者:伊勢田 哲治 名古屋大学出版会 Amazon 『疑似科学と科学の哲学』伊勢田哲治著を読む。 「悲観的帰納法」が気に入ったので引用。 「非常にうまくいっていた理論1は偽であることが判明した 非常にうまくいっていた理論2は偽であるこ…

黒歴史を明かしてはいけない

その謎を解いてはいけない 作者:大滝 瓶太 実業之日本社 Amazon 『その謎を解いてはいけない』大滝瓶太著を読む。 主人公は名(迷)探偵・暗黒院真実と押しかけ助手の女子高生・小鳥遊唯。実は、作家でもある。二人が次々と起きる不可解な殺人事件に挑む。 ラ…

三人寄れば毒が生まれる。それは、なぜ?

サークル有害論 なぜ小集団は毒されるのか (集英社新書) 作者:荒木優太 集英社 Amazon 『サークル有害論-なぜ小集団は毒されるのか-』荒木優太著を読む。 そも「サークル」は「ロシアに由来する小集団」のことだそうだ。知らなんだ。 「三人寄れば文殊の知…

『君たちはどう生きるか』を見た

宮崎駿監督『君たちはどう生きるか』を見た。久しぶりの映画館。 見た人の評価はsnsなどでは賛否両論。ネタバレしないでこの作品の魅力を伝えるのは多少骨かも。 一言でいうなら、私小説というカテゴリーがあるが、私アニメーション。しかし、そこには過剰な…

変わり続けた晩熟の哲学者

ホワイトヘッド―有機体の哲学 (現代思想の冒険者たち) 作者:田中 裕 講談社 Amazon 『ホワイトヘッド-有機体の哲学- (現代思想の冒険者たち)』 田中裕著を読む。 名前は知っていたが、詳しいことは知らない。なんで、入門書としてこの本をチョイス。 「ケ…

粘菌、因縁、南方曼荼羅

南方熊楠 地球志向の比較学 (講談社学術文庫) 作者:鶴見 和子 講談社 Amazon 『創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク』の序章で粘菌の話が出て来る。きわめて興味深い事例なのだが、その前に、粘菌といえば、どうしても知の巨人南方熊楠…

ブランドは、守るだけではなく、差異化するだけでもなく

ブランドのデザイン 作者:川島 蓉子 弘文堂 Amazon 昨夜と今日の午前中で『ブランドのデザイン』川島蓉子著を読む。 たまには、本業関係の本も紹介しないと。きれいなブックデザインにひかれた。 サントリー「伊右衛門」「ウーロン茶」、キユーピーマヨネー…

どこかにありそうで、「どこにもない場所」を書く、読む

猫の木のある庭 (河出文庫) 作者:大濱 普美子 河出書房新社 Amazon 『猫の木のある庭』大濱普美子著を読む。 西洋の怪談では幽霊やお化けは古城や貴族の古い館や別荘、教会など住まいに憑くといわれる。住まいの主が変わる度、小規模、大規模の改修、リフォ…

挫折の美学―真の密告者は誰なのか

『密告』 密告 作者:真保 裕一 講談社 Amazon 『密告』神保裕一著著を読む。 主人公萱野は、高校時代はラガーとして花園に出場したことがあった。しかし、故障により、大学の推薦枠から外れてしまう。そこで挫折を味わう。大学進学を断念して警察官となるが…

アンダーグラウンドの人々、シシュフォスの石の如き

土台穴 (文学の冒険シリーズ) 作者:アンドレイ プラトーノフ 国書刊行会 Amazon 『土台穴』アンドレイ・プラトーノフ著 亀山郁夫訳を読む。 機械工場で働いていたヴォーシェフは、突然、解雇を言い渡される。工員には、機械さながら始業から就業まで自分の持…

伍長から独裁者へ、妻から帝国の元首へ

妻の帝国 作者:佐藤哲也 Amazon 『妻の帝国』佐藤哲也著を読む。 妻が実は魔女だったというアメリカのTV人気コメディーがあったが、こっちは妻がほんとうは帝国の元首だったというお話。 朝な夕な妻は莫大な枚数の指示書をワープロで打ち-後に夫のパソコ…

「人工選択淘汰の時代」とは

情報エネルギー化社会―現実空間の解体と速度が作り出す空間 作者:ポール ヴィリリオ 新評論 Amazon 定期健診で午前中がつぶれる。 『情報エネルギー化社会―現実空間の解体と速度が作り出す空間』ポール・ヴィリリオ著 土屋進訳を読む。 断片集というのか、短…

すぐ読める、でも、すごく深い

ありふれた金庫 (ネコノス文庫 キ 1-1) 作者:北野勇作 ネコノス Amazon 『ありふれた金庫』北野勇作著を読む。 「百字小説」の第一人者の作品集。SFっぽいの、怪奇っぽいの、奇譚っぽいの、民話っぽいの、落語っぽいの、哲学っぽいの、メルヘンっぽいの、ミ…

J.J氏、1970年の日記

植草甚一読本 (1975年) Amazon 『植草甚一読本』 植草甚一著を読み返す。特に日記を。何度目だろう。 J.J氏を生前、渋谷で2度見かけたことがある。2回目のとき、追跡してみることにした。小柄で仙人のような風貌をしたJ.J氏は、ゆっくりとセンター街…

「書物のような歩行があるとすれば、歩くことに似た書物もある。それは歩行による「読解」を世界の描写に利用するということだ」レベッカ・ソルニット

未来散歩練習 (エクス・リブリス) 作者:パク・ソルメ 白水社 Amazon 『未来散歩練習』 パク・ソルメ著 斎藤真理子訳を読む。 スミと親戚のユンミ姉さんの物語と作家(兼業?)であるソウル在住の「私」が大好きな釜山に部屋を借りる物語。この二つ物語が交錯す…

非対称的世界がもたらしたもの

緑の資本論 (ちくま学芸文庫) 作者:中沢 新一 筑摩書房 Amazon 『緑の資本論』中沢新一著を読む。 本書を執筆するモチベーションとなったのは、9.11.以降の「国家の蛮行」と「イスラームに対する偏見や無知への憤り」である。さらに付け加えるならばア…

短篇と断片と断面

もう死んでいる十二人の女たちと (エクス・リブリス) 作者:パク・ソルメ 白水社 Amazon 『もう死んでいる十二人の女たちと』パク・ソルメ著 斎藤真理子訳を読む。 なかなか先へ読み進むことができなかった。あ、そうか、小説よりもむしろ詩、散文詩を読むと…

『明け方の猫』を夕方に読む

明け方の猫 (中公文庫) 作者:保坂 和志 中央公論新社 Amazon 連絡待ちの間に、こっそり、中学生が友だちから借りたエロ本を読むように『明け方の猫』保坂和志著を読む。なんで。わからん。 『明け方の猫』は、猫に変身した男の話。いかようにも書けるはずが…

マリッジブルーの男または宙ぶらりんの男

礫 作者:藤沢 周 講談社 Amazon 『礫』藤沢周著を読む。 主人公はペット業界紙の記者。グラマラスで美人の婚約者がいて、2人の新居となるマンションはすでに契約済み。結婚式の会場や日取りなどを決める最終段階にまで進んでいる。 しかし、彼は100%喜…

ユートピアは砂糖菓子のように脆い

チェヴェングール 作者:アンドレイ・プラトーノフ 作品社 Amazon 『チェヴェングール』アンドレイ・プラトーノフ著 工藤順訳 石井優貴訳をようやっと読む。 ロシア文学というと、長い、登場人物が多い。「父称、あだ名」と本名があってややこしい。誰が誰だ…

ヒトは、白紙じゃ生まれてこない

ヒトの意識が生まれるとき (講談社選書メチエ) 作者:大坪 治彦 講談社 Amazon 『ヒトの意識が生まれるとき』大坪治彦著を読む。 よく言われることだが、人間以外の哺乳動物は、生まれてすぐ独り立ちができる。それに比べて人間の子どもは「まったく頼りなく…

難病の子どもが治った?でも、おかしい

聖者の落角 佐々木事務所シリーズ (角川ホラー文庫) 作者:芦花公園 KADOKAWA Amazon 『聖者の落角』芦花公園著を読む。 心霊事に関することなら何でも承る佐々木事務所シリーズの三作目。所長のるみは、これまで颯爽と事件の解決に当たっていたが、本作では…

原因不明の伝染病に立ち向かう疫学者グループチーム

エピデミック (集英社文庫) 作者:川端 裕人 集英社 Amazon 『エピデミック』川端裕人著を読む。 パンデミックは、鳥インフルエンザなどの感染症などが世界的に流行することを言うそうだが、エピデミックは、特定地域で流行る伝染病を表わすそうだ。 この手の…