「書物のような歩行があるとすれば、歩くことに似た書物もある。それは歩行による「読解」を世界の描写に利用するということだ」レベッカ・ソルニット

 

 

『未来散歩練習』 パク・ソルメ著 斎藤真理子訳を読む。

 

スミと親戚のユンミ姉さんの物語と作家(兼業?)であるソウル在住の「私」が大好きな釜山に部屋を借りる物語。この二つ物語が交錯する。

 

ブリッジとなるのは、反米主義者による釜山アメリカ文化院放火事件。光州事件を武力で弾圧した軍と全斗煥政権。アメリカが糸を引いているのではないか。それをきっかけに反米闘争が起こる。

 

ユンミ姉さんは犯人の一人で服役を終え、スミの家に世話になる。スミが中学生のときだ。教えてくれたのは、親友のジョンスン。母親が日本人。

 

「私」は釜山を散歩していると、ビルの中に公衆浴場があることを発見する。そこでチェ・ミョンファンという六十代の女性と知り合う。条件が折り合えば、釜山に部屋を借りたい。物件探しで不動産店を巡る。そこで偶然、チェ・ミョンファンと再会する。彼女は、何件もの物件を所有している大家だった。

 

以前から関心を持っていた釜山アメリカ文化院放火事件のことを訊ねるとチェ・ミョンファンはリアルタイムで体験していた。独身の彼女は若い頃から蓄財しては、不動産投資に励んでいたそうだ。

 

その後、ユンミ姉さんは結婚。蔚山に住む。大学生になったスミは、アルバイトで資金を貯めてジョンスンのいる東京へ行く。異国での楽しい日々。


異なる立場から事件をあぶり出そうとする。でも、イデオロギー臭は薄い。釜山アメリカ文化院、現在の釜山近現代歴史館を訪れる。追体験による素直な実感が書かれていて、共感を覚える。

 

結局、「私」は釜山の中古マンションの一室を借りる。ソウルとの二拠点生活。必要最低限の家財道具。そこで読む愛読書の『チボー家の人々』。他にはロベルト・ポラーニョの本も。


旅に出て知らない町を歩く。知らない人やものやことを知る。引越しで知らない町に住む。知らない店や知らないいわれを知る。それは、わくわく、どきどき、することだ。
読んでいて旅に出たくなった。

 

ちなみにヤホーで調べたら、
「釜山へは、高速鉄道KTXを利用すれば、ソウルから最短で約2時間30分。一方、高速バスは約4時間」だそうだ。


キャッチコピーは『ウォークス-歩くことの精神史-』レベッカ・ソルニット著より引用。

 

乗代雄介の作品との関連性とか思いついたが、いずれ。

 

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