2021-01-01から1年間の記事一覧

タイトルを見て手を引っ込めてはいけない

ケアの倫理とエンパワメント 作者:小川公代 講談社 Amazon 『ケアの倫理とエンパワメント』小川公代著を読む。 タイトルを見てジュディス・バトラーの本みたいに難しかったら…。数ページ読み出して安堵した。するする読める。 冒頭部引用の引用。 「ケアはわ…

何々のようで何々でない。75の掌編小説

戦時の愛 (SWITCH LIBRARY) 作者:マシュー シャープ スイッチパブリッシング Amazon 『戦時の愛』マシュー・シャープ著 柴田元幸訳を読む。 『戦時の愛』、そうさな、爆弾が降り注ぐ中、防空壕内の秘めた恋愛とかを想像されるだろう。『戦争』という作品があ…

女には向かない職業。って言うヤツは蹴り倒す

因業探偵 リターンズ~新藤礼都の冒険~ (光文社文庫) 作者:小林 泰三 光文社 Amazon 『因業探偵リターンズ 新藤礼都の冒険』小林泰三著を読む。 推理力とルックスは最高、でも性格は最低。腕利きの探偵・新藤礼都は探偵事務所の開業資金を貯めるために、今…

グンバツなナオン

暗闇のスキャナー (創元SF文庫) 作者:フィリップ・K・ディック 東京創元社 Amazon 金曜日夜の渋谷並木橋界隈は、賑わっていた。このまま新型コロナウィルスは収束するとは思えないのだが。 Spotifyで懐ロックから最新曲まで聴き流している。 『暗闇のスキャ…

荒涼たる気候よりも荒涼たる心の方が凍(しば)れる

日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女 (ハヤカワ文庫 JA ハ 11-5) 作者:石黒 達昌 早川書房 Amazon 『日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女』石黒達昌著 伴名練編を読む。 昔に読んだのは再読そして初読。まったく色褪せていなかった。早過ぎた作品だったの…

捨てる仏あれば、拾う仏あり

廃仏毀釈 ――寺院・仏像破壊の真実 (ちくま新書) 作者:畑中章宏 筑摩書房 Amazon 『廃仏毀釈-寺院・仏像破壊の真実-』畑中章宏著を読む。 今はお寺と神社は違うものだと思われている。しかし、それは日本の歴史全体から見ればつい最近のことだ。お寺と神社…

おばさんは母でもなく「少女でもなく、老婆でもなく」

我は、おばさん (集英社文芸単行本) 作者:岡田育 集英社 Amazon 『我は、おばさん』岡田育著を読む。 女はおばさんに生まれない、おばさんになるのだ ―シモーヌ・ド・ボーボワール女史の名言をパクれば、こうなる。 いきなりこう来る。「「おじさん」になり…

「理念的な「男らしさ」とみずからの「無力(不能)」の亀裂を埋めようと」するとき、暴力が生まれる

暴力の哲学 (河出文庫) 作者:酒井 隆史 河出書房新社 Amazon 『暴力の哲学』酒井隆史を、ふむふむと読む。 この本でなぜトルーマン米国大統領が原爆投下にゴーサインを出したかというくだりが出てくるが、要するに「女々しく見られたくなかった」「男らしく…

ヴァージニア・ウルフなんかこわくない。いや、こわい。いや、かわいい

ヴァージニア・ウルフ短篇集 (ちくま文庫) 作者:ヴァージニア ウルフ 筑摩書房 Amazon 読んだ気になって読んでいなかった『ヴァージニア・ウルフ短篇集』ヴァージニア・ウルフ著 西崎憲編訳を読む。とりあえず何篇かの感想やあらすじなどをば。あらすじ書い…

オオカミよ、狼狽するな!狼煙を上げろ!

オオカミ県 作者:多和田葉子 論創社 Amazon 『オオカミ県』多和田葉子文 溝上幾久子絵を読む。 「俺」は、オオカミ県に生まれた。「狼」ではなく「大神」が由来らしいのだが。 オオカミ県以外のところを知らないのだが、「インターネットの書きこみ」でオオ…

化石は生きている―化石が記憶しているもの

化石の分子生物学――生命進化の謎を解く (講談社現代新書) 作者:更科 功 講談社 Amazon 『化石の分子生物学-生命進化の謎を解く-』更科功著を読む。 『ジュラシック・パーク』。ぼくは映画版を見たが、コハクに閉じ込められた蚊の化石からDNAを取り出して恐…

神は都市に宿る

都市と日本人―「カミサマ」を旅する― (岩波新書) 作者:上田 篤 岩波書店 Amazon 『都市と日本人―「カミサマ」を旅する―』上田篤著を読む。 「都市とは神様のいる場所」だと梅棹忠夫の説を引いて、作者は、皇居もそうだし、京都の東寺もそうだし、各地で復元…

ひりつく、辛口な短篇揃い

三十歳 (岩波文庫) 作者:インゲボルク・バッハマン 岩波書店 Amazon 『三十歳』インゲボルク・バッハマン著 松永美穂訳を読む。 彼女の詩を読む前に、短篇集を読んだ。小説というよりも長めの散文詩。そう思って読んだ。途中、ページを行きつ戻りつ。ヴァー…

読み出してすぐ妻(サイ)コパスとか妻(サイ)コキラーという見出しを思いついたが

恐怖小説キリカ (講談社文庫) 作者:澤村伊智 講談社 Amazon 『恐怖小説キリカ』澤村伊智著を読む。 香川隼樹が応募した作品『ボギワン』がホラー小説大賞を受賞した。一躍スポットライトを浴びる。 小説サークルの仲間からも祝福される。でも、ジェラシーの…

オール・ザット・平井呈一

平井呈一生涯とその作品 松籟社 Amazon 『平井呈一 生涯とその作品』紀田順一郎監修 荒俣宏編を読む。 平井呈一が水戸黄門なら紀田順一郎が助さん、荒俣宏が格さんだろうか。と、以前拙ブログで書いたことがある。 この本でやっと写真で平井呈一のご尊顔を拝…

パスツール曰く「観察の領域において、偶然は構えのある心にしか恵まれない」

科学者という仕事―独創性はどのように生まれるか (中公新書 1843) 作者:酒井 邦嘉 中央公論新社 Amazon 『科学者という仕事』酒井邦嘉著を読んだ。 副題が「独創性はどのように生まれるのか」で、各章とも最初に著名な功績のある科学者を紹介から入っていく…

SFぽいの好き―ぼくがSFに出会ったころ

ぼくがカンガルーに出会ったころ 作者:浅倉 久志 国書刊行会 Amazon 『ぼくがカンガルーに出会ったころ』浅倉久志著を読む。 伊藤典夫、浅倉久志の両巨頭の翻訳作品は、随分と楽しませてもらった。もらっている。いままで書いてきたものを部厚い一冊にまとめ…

海の向こうで『サンショウウオ戦争』がはじまる

サンショウウオ戦争 作者:チャペック,カレル 海山社 Amazon 『サンショウウオ戦争』カレル・チャペック著 栗栖茜訳を読む。 読むまでは、サンショウウオ=当時台頭しつつあったナチスドイツのメタファーで、サンショウウオvs人類の闘争は、第二次世界大戦を…

『輝く断片』をピグマリオニズム(人形愛)といってしまえば、ハイ、それまでよ、か

輝く断片 (河出文庫) 作者:シオドア・スタージョン 河出書房新社 Amazon 『輝く断片』シオドア・スタージョン著 大森 望他訳、読了。 8篇の短編が収録されているが、やはり、トリをつとめる表題作が図抜けていい。大御所伊藤典夫の翻訳が、また、いい。なら…

百化繚乱―文豪たちの幻想童話

幻想童話名作選: 文豪怪異小品集 特別篇 (920) (平凡社ライブラリー い 36-2) 作者:泉鏡花、内田百閒、宮沢賢治ほか 平凡社 Amazon 『幻想童話名作選-文豪怪異小品集特別篇-』泉鏡花 内田百閒 宮沢賢治ほか著 東雅夫編を読む。いやはや豪華なアンソロジー…

小林泰三版イヤミス?―探偵事務所開業のためならば

因業探偵~新藤礼都の事件簿~ (光文社文庫) 作者:小林 泰三 光文社 Amazon 『因業探偵 新藤礼都の事件簿』小林泰三著を読む。迂闊にも出ていることを知らなかった。新藤礼都を知ったのは『密室・殺人』。頭は切れるが、底意地の悪い性格。脇役からついに主…

異界はボクらを待っている

十四番線上のハレルヤ 作者:普美子, 大濱 国書刊行会 Amazon 『十四番線上のハレルヤ』大濱普美子著を読む。 装画のインパクトで手にした。6篇の幻想短篇小説集。版元が版元ゆえ一筋縄ではいかないだろと読み始める。いろんな味わいがして、しばし異界へと誘…

赤貧笑うがごとし

無能の人 作者:つげ 義春 日本文芸社 Amazon 『無能の人』つげ義春著を読む。何遍読み直しただろうか。 志ん生ではないが、どうしてビンボー話が始まると、居合わせた、たいていの人は、盛り上がるのだろう。たぶん、それはかつてビンボーだったとか、ビンボ…

あげるな。誉めるな―学校、家庭、会社での報酬を批判する 

報酬主義をこえて 〈新装版〉 (叢書・ウニベルシタス) 作者:アルフィ・コーン 法政大学出版局 Amazon 本書は、「広く支持されている『競争』に異を唱え」、名著の誉れ高い『競争社会をこえて』の続編ともいうべき作品。まずは、アメリカ社会の根底を支えてい…

『ナウシカ考 風の谷の黙示録』を読みながら、マンガ版『風の谷のナウシカ』を読む

ナウシカ考 風の谷の黙示録 作者:赤坂 憲雄 岩波書店 Amazon 風の谷のナウシカ 全7巻箱入りセット「トルメキア戦役バージョン」 作者:宮崎 駿 徳間書店 Amazon 『ナウシカ考 風の谷の黙示録』 赤坂憲雄著を読む。民俗学や哲学などからマンガ版『風の谷のナウ…

『マルチチュード(上)(下)<帝国>時代の戦争と民主主義』昔、書いたのに若干プラスして

マルチチュード 上 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス) 作者:アントニオ・ネグリ,マイケル・ハート NHK出版 Amazon マルチチュード 下 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス) 作者:アントニオ・ネグリ,マイケル・ハート NHK出版 Amazon ネグリ…

守備範囲の広い作家

日本SFの臨界点 新城カズマ 月を買った御婦人 (ハヤカワ文庫 JA ハ 11-4) 作者:新城 カズマ 早川書房 Amazon 『日本SFの臨界点 新城カズマ 月を買った御婦人』 新城カズマ著 伴名練編を読む。 編者の解説を読むと作者はSFのみにとどまらず、ライトノベル、…

医学生がSF作家になるまで

高い城・文学エッセイ (スタニスワフ・レム コレクション) 作者:スタニスワフ レム 国書刊行会 Amazon スタニスワフ・レムの『高い城・文学エッセイ』を読んだ。 エッセイの最初に収録された作品『偶然と秩序の間で―自伝』を読む。作者はポーランド生まれの…

「進化は進歩ではない」―ポロポロポロ(目からウロコが落ちる音)

残酷な進化論: なぜ私たちは「不完全」なのか (NHK出版新書) 作者:功, 更科 NHK出版 Amazon 『残酷な進化論-なぜ私たちは「不完全」なのか-』更科功著を読む。 作者の専門は「分子古生物学」。何やら難しそうだが、この本は進化や自然淘汰などその核心をわ…

「地球上で最も獰猛な人食い生物は、カモなどの水鳥の無害な寄生体である」意外!

感染爆発―鳥インフルエンザの脅威 作者:マイク デイヴィス 紀伊國屋書店 Amazon 『感染爆発 鳥インフルエンザの脅威』マイク・ディヴィス、読了。 つらつらと雑駁なメモ。 ここを最初に引用。 「地球上で最も獰猛な人食い生物は、カモなどの水鳥の無害な寄生…