守備範囲の広い作家

 

 

『日本SFの臨界点 新城カズマ 月を買った御婦人』 新城カズマ著 伴名練編を読む。

 

編者の解説を読むと作者はSFのみにとどまらず、ライトノベル、時代劇までこなす。ゲームマスターも。読んでいて洒脱。世界や文体が欧米の奇想小説や奇妙な小説を思わせる。10篇の作品から何点かを選んであらすじや感想まどを。

 

『アンジー・クレーマーにさよならを』
かつて自分の下着やブルマーを売る女子高生が話題となった。この作品では少女たちが下着の替わりに個人情報を売って著名人などの遺伝子情報を買っている。そんな近未来と古代ギリシャのポリス(都市国家)のひとつ、スパルタの物語が入れ子になっている。コルタサルのようなポップさ。ガーリッシュサイバーパンク。女子高生、書くの、うまいわ、マジ。


『ジェラルド・L・エアーズ、最後の犯行』
ジュニアハイスクール7年生のモーリーンと死刑囚ジェラルド・L・エアーズがひょんなことから文通を始めることになる。二人の手紙のやりとりが進むにつれ、なんだかじわじわと怖くなってくる。手紙だからなのだろうか。会えないことがわかっているからなのだろうか。お互い本心と思えることを書いている。女子高生とサイコパスの文面の書き分けが巧み。死刑囚はモーリーンに会えたのだろうか。着地も決まって高得点。

 

『月を買った御婦人』
舞台は19世紀のメキシコ帝国。公爵令嬢で絶世の美女・嬢(ドンナ)アナ・イシドラは、結婚の条件に月を求めた。求婚した男たちは月を得るために競って月に到達する大砲など新しい技術を開発する。何やら『かぐや姫』やジュール・ヴェルヌの『月世界旅行
(ジョルジュ・メリエスが映像化、画像参照)のオマージュか。公爵令嬢のわがままに振り回されるしょうもない大の男たち。

 

『さよなら三角、また来てリープ』
頃は1977年。進学校に通う3人組は、SF同好会のメンバーでもあった。SF好きが高じて学園祭に天使型宇宙船を出そうと計画する。学校側には反対されることがわかっていたので無許可で、あっと言わせようと。「俺」は、親に泣きつかれてようやく受験勉強をする気になって図書館へ。そこでトルーキン好きの美穂と出会う。女子でファンタジー好きとは…。甘酸っぱい学園青春もの。『スター・ウォーズ』がアメリカで公開された年。雑誌『popeye』なんかでさんざん特集しておきながら、翌年までお預けを喰わされていたことを思い出す。作者の思い出とか反映しているのだろうか。

 

『雨ふりマージ』
会社をリストラされた母親。シングルマザーゆえ一家の経済がひっ迫するのは目に見えているその対策として主人公・緑川フランシス真魚たち、家族は人間(自然人)から「架空人」になることを選ぶ。ヴァーチャルな存在として拡散されるのだが。赤毛の女の子マージとの出会い、別れは切ない。

 

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月世界旅行』 (ジョルジュ・メリエスが映像化)

 

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