『恐怖小説キリカ』澤村伊智著を読む。
香川隼樹が応募した作品『ボギワン』がホラー小説大賞を受賞した。
一躍スポットライトを浴びる。
小説サークルの仲間からも祝福される。
でも、ジェラシーの火は容易に消せない。
まして実力では彼より上と思っている人には。
彼のデビュー前に悪質な怪文書が周囲に出回る。
ストーカーなど嫌がらせ行為も続く。一体、誰が。
彼はバツイチ。再婚して妻・キリカがいることは
親しいサークルの仲間にも秘密にしていた。
前妻が彼らとも親しかったので話しにくかったのだろう。
怪文書やいやがらせは前妻にまで及ぶ。ついにその主を彼は見つける。
許さない…。
まもなく待望のデビュー作が発売される。
新人でなくとも作家にとって作品の評価は気になるもの。
で、しなければいいのにエゴサーチするわけ。
しょせん素人の書いたレビューだから気にしなければいいのに。
ところが、大いに気になるようだ。主人公、ペンネーム澤村伊智は。
「書いたヤツ、死ね!」とかマジで思う。まさか。
投稿などから執拗に投稿主を割り出す。恐るべき執念。
妻は夫の異常を担当編集者にメールで訴える。
グロい、キモい凶行を一部始終。
『ボギワン』よりも怖いかも。
このあたりから頭がグルグルしてくる。
読み出してすぐ妻(サイ)コパスとか妻(サイ)コキラーという見出しを思いついたが、
完全な勇み足だった。
新人賞を受賞してそこから単行本が出るまでの出版社とのやりとりや
異なる出版社からの依頼などが書かれていて興味深い。
原稿の修正依頼もあるんだ。
このようなリアルなことにフェイクなことを挟み込むと不思議にリアルに思えてくる。
しかも「その後―文庫版あとがきにかえて」では、主人公のコピーキャットが出現することを伝える。
一筋縄ではいかない作家である。