百化繚乱―文豪たちの幻想童話

 

 

『幻想童話名作選-文豪怪異小品集特別篇-』泉鏡花 内田百閒 宮沢賢治ほか著 東雅夫編を読む。いやはや豪華なアンソロジー。おっさんが読んでも、はまってしまう幻想童話ばかり。何篇かチョイスして、話と感想を手短に。

 

『海戦の余波』泉鏡花
日清戦争で戦艦に搭乗して行方不明となった海軍中尉の父。息子・千代太は父が忘れられない。なんとか会いたいと。暴風雨の中、船に乗り、遭難者を救出する。そこから父をたずねる冒険譚がはじまる。竜宮に辿り着く。戦意高揚するかって、しないだろ。男気は感じるが。それにしても、どんだけ澁澤龍彦の小説が鏡花の文体に影響を受けているかを知った。

 

『桃太郎』『三本足の獣』『狼の魂』内田百閒著
童話って結構残酷で結構ナンセンスだったりして。この3作品も、そう。かなり不条理な変てこ話。まったく古びていない。

 

『おもちゃの蝙蝠』佐藤春夫
本物の蝙蝠になりたかったおもちゃの蝙蝠。でも…。相変わらずオシャレなシティ派メルヘン。

 

『幼虫の曲芸』江戸川乱歩
タイトルからして『芋虫』の系列?童話?と思いつつ読んだら、ファーブルのトックリバチの話をネタにした科学啓蒙童話。意外。トックリバチのトリック。

 

『ルルとミミ』夢野久作
ルルとミミは孤児の兄妹。父は鐘づくりの名人だった。父はつくったお寺の鐘が鳴らなくて湖に身を投げた。父の仇というわけではないが、今度はルルが鐘をつくると…。大きなお目目に星がキラキラ。何もかもが砂糖菓子のようにスィート。『ドグラ・マグラ』の作者に、こんな少女漫画チック、乙女系小説があったとは。


『人魚の嘆き』谷崎潤一郎
支那の南京の貴公子が主人公。眉目秀麗、親が残した莫大な財産もある。酒や女性にうつつを抜かすが、退屈はおさまらない。欧人が貴公子のために南の海から人魚を「生け捕って来た」と。人魚に魂を射抜かれた彼は法外な値段を支払って暮らすようになる。
耽美的な一文を引用。

「彼の女は、うつくしい玻璃製の水甕の裡に幽閉せられて、鱗をはやした下半部を、蛇体のようにうねうねとガラスの吸いつかせながら」

『犬と笛』芥川龍之介
主人公は若い樵(きこり)。名は、髪長彦(かみながひこ)。このネーミング、気に入った。
ロン毛イケメン。笛の名手。笛の演奏のお礼に神様の3兄弟から、嗅覚に優れた犬と空を飛ぶ犬と噛む力に優れた犬をもらう。笛で犬たちをコントロールする。二人のお姫様がさらわれたことを知り、犬たちの力で探し出す。二人のお姫様は髪長彦にゾッコン。
二人の武士が彼の秘密を聞き出し、笛を奪い犬を連れ去る。姫の父の大臣のもとへいき、褒美をせしめる。ピンチの髪長彦を救う姫様。

 

『ちんちん小袴』小泉八雲著 池田雅之訳
若妻の元に深夜何百人もの二本差し武士姿の小人がやって来て歌い踊る。それが連夜。若妻はうんざり、げんなり。彼らは「ちんちん小袴」と名乗る。可愛いけど不気味。若妻のあるいけない行為が彼らを招いた。その正体は。

 

『平太郎化物日記』巌谷小波
稲生物怪録』を子ども向けに書き換えた作品。かな。平太郎は化物を呼ぶ力でもあるのだろうか。次々と現れる化物。大人たちはびびってしなうが、平気の平太郎。怖さよりもユーモアを感じてしまう。『鬼滅の刃』がヒットしているし、絵本や漫画にするのもありでは。漫画は霊界から杉浦茂を呼び出して依頼するのはどうでせう。

 

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泉鏡花『海戦の余波』千代太のイメージ:高畠華宵の挿画

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杉浦茂の漫画で『平太郎化物日記』を



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