小林泰三版イヤミス?―探偵事務所開業のためならば

 

『因業探偵 新藤礼都の事件簿』小林泰三著を読む。
迂闊にも出ていることを知らなかった。
新藤礼都を知ったのは『密室・殺人』。頭は切れるが、底意地の悪い性格。
脇役からついに主役の座をつかんだのか。

 

彼女は探偵事務所をつくろうとする。
サイコキラーであるレクター博士が優れたプロファイラーであるように。
クラッカーが優れたホワイトハッカーになるように。
前科がある彼女は名探偵になる素質は十分。
ホームズだってポアロだって決して性格は良くないし。

ところが、先立つものがない。
まずは、開業資金をつくろうと様々なアルバイトに励む。
彼女のいくところ、なぜかトラブルや事件が続く。
でないと、ミステリーにはならないのだが。

 

テーマはワイドショーや週刊誌が好みそうなものばかり。
持ち前の推理力や理屈(時には屁理屈、時にはではないかも)、卑怯と思われる手口で
真相解決していく。

 

『保育補助』
子ども好きとは思えないし、保育士の資格などもない。慢性的な人手不足ゆえ認可外保育園で働くこととなった。園長には口外できない保育園経営には致命的と思われる過去があった。その過去を暴くためにいわば潜行した礼都。

 

『剪定』
いつからか公園は、やたら禁止行為が増えていた。リストラかなんかにあって妻にそのことを話せない田沢は今日も公園で愛妻弁当を食べていた。それとて禁止行為だった。市の臨時職員となった礼都は、公園の木々を男のそばで剪定する。
田沢は驚いて弁当を落とす。そこからトラブルとなる。鬱憤がたまっていた男は礼都に文句を言うが、相手が悪い。そこへ自治会長の九度山が加勢する。公園管理者の西田と九度山犬猿の仲。アコギな方法で西田を陥れようとしていた。禁止行為で防ぐ西田。九度山の悪行を暴く礼都。


『散歩代行』
犬の散歩代行のアルバイトを始めた礼都。犬のチビの目線から書かれている。チビはブルドッグのメリーに好意を抱いている。男がチビと礼都を食い入るように見ている。あの男だ。「猫は知っていた」ならぬ「犬は知っていた」。狙われるチビ。一件落着後、懇願されてもう一人のペットシッターになる。毎度ありぃ!


『家庭教師』
アルバイトの定番といえる家庭教師になった礼都。教え子の広重が誘拐されることに。うろたえる父親。ところが誘拐されたのは友人の豪だった。慌てる母親。間違えて誘拐されたのは、礼都の仕業だった。なぜ?キレた母親がわが子を助けたい一心で暴走する。そのドタバタが笑える。

 

『パチプロ』
自称イケメンの吾郎。亡くなった父親の資産管理で高等プータローの身分。ストーカーの幸実に追われてパチンコ店へ逃げ込む。勢いあまってパチンコ玉をひっくり返す。弁償しろと迫る、礼都。

ここからサイコっぽい展開となる。ストーカーだったのは吾郎の方。自身ではイケメンだと思ったのに、ストーカー行為が撮られた写真に写っていたのは父親そっくりのブサメンだった。ウソー!!

 

『後妻』
あ、紀州ドン・ファン死亡事件かよと思う。見た目は良さげな礼都。アルバイトじゃ開業資金は容易に貯まらない。後妻になって老い先短い夫の死を待つ。その遺産で一気に夢を叶える。ところが、家政婦がことあるごとに計画の邪魔をする。見事などんでん返し。

新藤礼都と似たキャラがいるな。誰だっけ。あ、そうそう。『映像研には手を出すな!』の金森さやかだ。

 

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