異界はボクらを待っている

 

 

『十四番線上のハレルヤ』大濱普美子著を読む。

装画のインパクトで手にした。6篇の幻想短篇小説集。版元が版元ゆえ一筋縄ではいかないだろと読み始める。いろんな味わいがして、しばし異界へと誘われた。やっぱりな。各篇の内容と感想を手短に。

 

『ラヅカリカヅラの夢』
「5年ほど前に見知らぬ町」のアパートに引っ越してきた教師(たぶん)の米子。海沿いにある町で「屑屋の源さん」やアパートの下に住む「オコモリさん」、占い師(予言者)の「ヤニバア」など奇怪な人々と出会う。埠頭には「奇態な魚が打ち上げられる」。
米子は行きつけの「ジャズ喫茶青帳面」で『ラヅカリカヅラ』のことを知らされる。「この地方の固有種」。稀になる実を食べると「子供が生まれるという言い伝え」がある。そうこうして彼女は伝説の『ラヅカリカヅラ』を探しに行く。ラブクラフトばりの、のっぴきならない光景が描写される。

 

補陀落葵の間』
サキコの母親が再婚した。新しい父親にはサキコと同じ年齢の美樹がいた。サキコは勉強ができるが引っ込み思案。美樹は勉強は苦手だが、可愛らしいルックス。対照的な二人。新しい父親は単身赴任先の中東で亡くなる。残された三人はそれでも安穏に暮らしていた。母親から叔父が亡くなって旅館を相続することになった話を切り出される。母親はその旅館を切り盛りしたいと言い出す。旅館をみんなで見に行くことになる。

ここから、話が入れ子構造、メタフィクションとなる。サキコたちの話とどうやら旅館に関わる母親の縁者の話。彼岸と此岸。リア充のサキコたちと囁いてる彷徨える先祖の霊たち。その対比が素晴らしく、ゾクゾクする。思わぬところで話が交差する。


『十四番線上のハレルヤ』
霊能者の両親から生まれた「私」。「「人」に対する記憶」は優れていた。学生時代に住んでいた「都市を10年ぶりに」訪ねた。十四番線の路面電車に乗る。あるエピソードを思い出す。女性の検札係が来たが、買ったはずの切符が見つからない。失くした!プチパニックになった私。突如、車内のどこからか歌声が聞こえてくる。歌うアコーデオン奏者。そばにいた男が何かを手渡す。私の切符だった。そして「ハレルヤ」と唱える。
記憶の底から再び朗々とした「ハレルヤ」が、空耳か。失われし時を探す旅。

 

『鬼百合の立つところ』
百合子は花屋の店長をしている。長身瘦せ型、楚々としており、いかにも百合という感じ。客としてあらわれた「あなた」。その存在が気になり自宅まで後を追う。あるとき、偶然街で見かけた時もその行く先が気になって尾行する。ほぼストーカー状態。
アルバイトたちから「鬼百合」と呼ばれていることを知る。「鬼百合か」。葬儀用の花束を注文した「あなた」。住所と名前は知っている。彼女はまた「あなた」の部屋を覗きにマンションの避難梯子を登る。


『サクラ散る散るスミレ咲く』
本名は「スミレ」なのだが、「ツミレ」と言ったら亡くなった父親が喜んだので以来「ツミレ」と名乗ることにした。薬剤師をしている母親が兄とツミレを育てる。彼女は知的障碍児らしく、いじめの対象に。ただしその自覚もさほどない。母と兄は彼女を懸命に守る。
本人はのほほんと生きているが、最愛の兄を若いうちに失くす。母親もいつしか老いを迎える。ツミレが還暦のとき、母も亡くなる。いろいろな思い出が頭の中で交錯する。母の死を悲しむより、かすかに聞こえる祭囃子が気になる。お祭りに行きたい。外見は老いても内面には幼い少女が棲んでいる。

 

『劣化ボタン』
VR(ヴァーチャル・リアリティ)がテーマ。急にナウになる。VRショールームとかVRゲームセンターとかがあるが、ついに住まいの内装もVR化。好みでボタン一つでゴージャスにも、ナチュラルにも選べる。単身赴任することになった「僕」が選んだのは、そんな最新型の部屋。
選択肢にグレードアップがあるのはわかるが、グレードダウンがある。仮想落ちぶれ空間か。グレードダウンを選んだわけではないのに、なぜか部屋の様相がひどく貧しくなっていく。VRシステムのエラーなのか、それとも「僕」の心のエラーなのか。どことなくシャーロット・パーキンス・ギルマンの『黄色い壁紙』をイメージさせる。

 

人気blogランキング