百合ミステリー。皆川博子好きならたまらない世界

 

 

『ハーフムーン街の殺人』アレックス リーヴ著 満園真木訳を読む。

 

舞台は1880年代のロンドン。「解剖医の助手」レオ・スタンホープ。レオは偽名。実は性同一性障害者。女性として育てられた。本名はシャーロット。男性として生きるために家を出た。男装は煩わしいが。


トランスジェンダーの生きにくさ、親、特に同性である母親の無理解ぶりがかなりページを割いて書かれている。

 

レオは娼婦マリアと恋仲になる。娼館でのラブシーン。張形(ディルド)の描写などかなりエロティック。レオはマリアとの逃避行を望む。芝居を見に行く約束をして娼館を出る。約束の当日、マリアは来なかった。

 

仕事へ行く。いつものように霊安室から解剖室へ遺体を運ぶ。女性の死体。「シーツをめくる」。マリアだった。愕然とするレオ。彼がマリアに熱をあげていたことをどこからか知り得た警官は殺人容疑で逮捕、拘留する。女性であることがわかる寸前、保釈される。

 

「解剖医の助手」は、にわか探偵となってマリアを殺めた犯人を見つけ出そうとする。マリアは人気の娼婦。中でも陸軍少佐のお気に入りだった。調べるうちにマリアの実像が浮かび上がる。当然、レオが思うほど純粋ではなかった。

 

レオの行動が気に障り、何ものかが事件から手を引けと恫喝めいた忠告をする。ひるまず、調査を継続する。殺人事件とマリアのいた娼館の秘密が次第につまびらかになっていく。彼はスキニーな女性の体ゆえ非力。心はタフガイだけどね。知り合った産婆のルイズ・モローなど中高年女性たちの方がよほどパワフル。


途中、レオが女装(?)するシーンが出て来る。訳者あとがきに「『リボンの騎士サファイア姫や『ベルサイユのばら』のオスカル」を挙げている。変身して局面を打開する。松山容子の『琴姫七変化』もあるな。うなずくあなたは中高年。

 

百合ミステリー。皆川博子好きならたまらない世界。「ヴィクトリア朝後期」のロンドンの建物や薄汚れた河川の描写などが怪しさを演出している。設定も良く、登場人物の書き分けもOK。アクションシーンも盛りだくさん。なんだけど、オチがちょっと弱い。
わくわくしながら読んでいたので、やや肩透かし。続篇も出ているそうだ。早い翻訳がのぞまれる。


モデルがいたことを訳者あとがきで知る。軍医だったそうな。

 

人気blogランキング