『ブラック・ハンター』ジャン=クリストフ・グランジェ著 平岡敦訳を読む。
前作『クリムゾン・リバー』で心身ともに痛めつけられたフランス司法警察警視正ニエマンス。警察学校の教官をつとめ、現役復職はヤバいかと思ったら復帰。
教え子のイヴォ―ナ警部補とバディを組む。
彼女はクロアチアから移民した父とフランス人の母とのハーフ。アダルトチルドレンで一時期、ドラッグに染まったり、内戦で殺されそうになるなど暗い過去を持っている。
しかし警察官としての能力はきわめて高い。
二人は仏独国境で発生した猟奇的な殺人事件の捜査に当たる。
殺されたのは、ドイツの有数の「富豪ガイエルスベルク家の跡継ぎ」ユルゲン。
趣味が狩猟なのだが、接近猟(ピルシュ)と同じ獲物の捌き方で殺された。
ガイエルスベルク家を調べる二人。ユルゲンの妹ラオラが登場。清楚な美しさにまたもや惹かれるニエマンス。
ガイエルスベルク家が経営するVGグループは、自動車工業界のトップ企業、
父親の死後、ユルゲンとラオラ、二人で経営していた。
ドイツの警察の担当はクライナート警視。冷静で知的雰囲気漂うドイツ人。ニエマンスとは正反対のタイプ。
仏独二カ国で捜査するのだが、つい暴走しがちなニエマンス。あきれるクライナート。
クライナートはイヴォーナに好意を抱いているらしい。彼女もまんざらではないようだが。
絶滅したはずの犬ローエットケンに狙われたラオラ。間一髪、助けるニエマンス。
ガイエルスベルク家の地所である深くて暗い広大な森。
そこに潜んでいるものは。隠蔽されているものは。
タイトルの『ブラック・ハンター』とは
「ヒムラーが犯罪者に恩赦を与え、編成した特殊部隊。彼らはすぐれた腕前のハンターや密猟者。人間狩りを専門にしていた」そして「ベラルーシで地元の犬を調教。それが殺人兵器ローエットケン」
大学町フライブルク・イム・ブライスガウを訪ねる二人。
「鯨館」の前でこう話すニエマンス。
「「あれは『サスペリア』の舞台になった建物だ」」
「おれは十代の頃から暴力にとり憑かれていた」
で、スプラッタホラー映画が好きだった。
ガイエルスベルク家の家系を調べるとあることに気がついた。
偶然なのか、必然なのか。
『ブラック・ハンター』は甦ったのではなく、黒い森に存続していた。
後半は、どんでん返し×どんでん返し。ド派手なアクションシーン。
足手まとい気味だったニエマンスも、最後に面目躍如。
ワグナーの重々しく荘厳なオペラが似合いそうな作品。
悪者と女性には強いニエマンスだが、犬には弱い。その理由も明かされる。
個人的に『クリムゾン・リバー』に出ていた警部カリム・アブドゥフのファン。
「警察を辞めて国に帰った」そうだが、スピンオフとかで彼を主役に書いてくれないだろうか。