海の向こうで『サンショウウオ戦争』がはじまる

 

 

サンショウウオ戦争』カレル・チャペック著 栗栖茜訳を読む。

 

読むまでは、サンショウウオ=当時台頭しつつあったナチスドイツのメタファーで、
サンショウウオvs人類の闘争は、第二次世界大戦を予言しているSF小説。なんだろと。

ところが、違った。

 

サンショウウオの人類へのリベンジが始まった。それは、人間が彼らの生態環境を
汚染させたからだ。『ウルトラQ』みたいな話でもなかった。

 

南の島に生息していたサンショウウオ

寄港していたヴァン・トフ船長は彼らが役に立つと考えた。
要するに奴隷としてこき使えると。
彼らは繁殖能力が旺盛。学習能力も高い。おまけにエサ代も安い。
人間が嫌がる水辺の危険な仕事も文句言わないで行う。
残業代や有給休暇もいらないだろうし。
万が一、ダメになったら、その肉体は食用になる。

ま、おいしくはないだろうが。漢方薬にもなっているみたいだし。

 

人間にとって都合の良いサンショウウオは、たちまち、世界各国に輸入される。

予想通りサンショウウオは各国で急激に増殖する。
面白いことに国によって進化の形状が異なる。

やがて彼らは独自の社会をつくる。


たとえば「カルト集団、サンショウウオ教団」をつくる。
教祖は「マイスター・サラマンダー」と名乗る。
教祖がくねくねすると男のサンショウウオもくねくねさせる。
妖しい踊りに魅了される女のサンショウウオ

 

「国際労働機構(ILO)」でサンショウウオの待遇改善問題が取りあげられる。
有給休暇や保険、年金を与えよという一派と

サンショウウオは人間の労働者をおびやかす存在だから認められないという一派と

意見は真っ二つ。

 

そうこうしているうちに小競り合いが起きる。
「最初にサンショウウオと戦争状態に突入したのはイギリス」。
サンショウウオは圧倒的な勝利をおさめるのだが。

 

話は戻るが、サンショウウオナチスドイツのメタファーというよりは、
黒人奴隷、移民に弾圧された先住民族先住民族に虐げられた移民などのメタファー。
AIやロボットも同類だろう。

 

さあて作者ははりめぐらせた伏線をどう回収するのだろうと
期待しつつページをめくると。

 

結末を書きあぐねているようでグダグダ言い訳を言い出す。
読者をはぐらかすのは、作者の洒落というかユーモアの一手立てだと思うんだけど。

ま、結末なんかなくたってこの小説は面白いけどね。

 

良い子のみんなは、作者の註をちゃんと読もうね。
小ネタで笑えたり、感心したりすることが書いてあるから。

 

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