デビュー作。その出来に圧倒される

 

 

パルタイ倉橋由美子著を読み直す。


大学生の時、好きな作家は、女性では、金井美恵子森茉莉、そして倉橋由美子だった。この作品集、読んでいたはずなのに、まったく読めていなかった。でも、それだけじゃなくて、1960年代に書かれた作品が、なんかいまの時代の風潮にもシンクロしているのだ。

 

アンチロマンなどのスタイルを巧みに換骨奪胎してリアリズムを徹底的に排除した世界を描いている。不条理かつ寓話のような。でも、教訓めいたものなどは微塵もなく。


パルタイ
わたし(女性)はパルタイへ参加するため、あなた(男性)から経歴書の書き方を助言される。ようやく入ることができたパルタイ。その頃にはわたしはうんざりして離脱の手続きを取る。明治大学の学生の時に書いたデビュー作。文体は「カフカカミュサルトル」を意識したものだそうだ。で、当時の学生運動セクト主義を痛烈に皮肉っていることが再読してわかった。あ、男性優位主義とかもか。

 

『非人』
学生寮で集金人をしているぼく。ぼくにはしっぽがあるが、寮費を納めていないQにはしっぽがない。しかも大喰らい。寮生大会で赤字問題を討議する。雑役夫からは「非人」と言われる。組織の矛盾を突いた作品。やたら糞尿が出て来るが、決して笑いには結びつかない。

 

『貝のなか』
貝とは歯科女子大学の学生寮。さまざまな匂いや臭いのする4人部屋。わたしとイクラ、スジコ、タラコは、ふった、ふられたなどのコイバナや盗難事件に巻き込まれる。歯科医の家に生まれた著者が明治大学入学前に通っていた短期大学のことがベースになっているとは思うのだが。わたしのかれは「革命党」に入党した。彼女もかれに入党を依頼するが、応答はなく。「革命党」と名乗りながら、そのヒエラルキーや入党条件の厳しさ、そこには選民思想がありあり。セクト嫌いの著者のペンが冴える。


『蛇』
なぜか蛇を飲み込んでしまったK。学生寮は大騒ぎになる。病院に行けば、妊娠に間違えられたり。家庭教師のアルバイト先や恋人のLからは臭いと言われたり。審判を受けるが、しまいに蛇はLまで呑み込む。フロイト的にいうならば、蛇は男根のメタファーなんだけど。さらにうがった見方をするならば、無理やり蛇という異物を体内に侵入させることとは、洗脳、思想矯正なのではないだろうか。結局は蛇にKは吞み込まれてしまうという風刺の利いた毒のあるスラップスティックコメディ。

 

『密告』
ジョルジョ・デ・キリコが描いたようなギリシャの世界が広がる。優等生のぼくとPとQは、友人であり、三角関係の愛人同士でもある。多感な十代ゆえ感情の振れ幅が大きく、彼らの心にはまさに悪魔と天使が同居している。ぼくはガールフレンド・Lをいつものようになぶる。BL(ボーイズ・ラブ)の先駆け的作品。ジャン・ジュネあたりをイメージさせる。

 

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