なんてこった!このご時世に、ど真ん中の恋愛小説を読もうとは!

 

 


『最愛の』上田岳弘著を読む。

 

コロナ禍なんて随分昔のことのように思えるが、まだ、つい、数年前のことだ。三密を避けるため、企業は社員を在宅勤務、リモートワークさせ、会議はWEB会議になった。
飲み屋も出勤時の電車も、信じられないほど空いていた。


目先の利く企業は、オフィスのダウンサイジングを図り、家賃など固定費の削減に取り掛かった。この小説は、そんな時代から始まる。

 

主人公の久島は、ITに長け、仕事もバリバリこなし、おつきあいする女性も切らしたことはなかった。公私の文章は、当然のようにスマートフォンかPCで入力する。

 

ただし、中学時代に知り合った望未とは、大学4年生の終わりころまで手書きの手紙をやりとりしていた。途中何度か途切れそうになった文通だが、なんとか続いていた。

 

表題の「最愛の」とは、彼女の手紙の書き出し。彼女は病気で学校を2年留年していた。久島が東京の大学に入学してから、遅れて彼女も大学に入学した。ごくまれに会うこともあった。望未が会う条件は、会っても寝ないこと。

 

夜の図書館で待ち合わせをして近所の公園でこっそり花火をしながら缶ビールを飲む。昂る気持ち。ところが、その約束は破られてしまった。

 

互いに好意は持っている。でなければ、こんなに長く文通は続かないだろう。二人の恋愛模様をメインに、そこに、クセの強い人物が絡んでくる。

 

澁谷のコワーキングオフィスで知り合ったデジタル画家・坂城。大学の同級生、向井。在学中に司法試験をパスした秀才でモテ男。夫が単身赴任している渚。いわゆるセフレ関係。太腿の内側にある痣を隠すため、いつもストッキングを履いている外交官志望の女子大生。

 

取引先の接待で入った有楽町ガー下の呑み屋の女性。源氏名は「ラプンツェル」。彼女は院生でタワーマンションの最上階住まい。すなわち、塔の上のラプンツェル。高額な家賃はパトロン持ち。

 

ラプンツェルの住んでいる塔を探すゲームに興じる。

 

突然、消息を絶った望未。返事を期待することもなく手紙を送り続ける。

 

意外な連絡が。以前訪ねたことがある彼女の生まれ育った町に行く。そこで本当のことを知る。

 

彼は今でも時折、彼女の手紙の束を読み返す。


読みながら、こちらも、とても、とても、切なくなる。

 

人気blogランキング