奇怪な神・機械が「最大の戦争」を引き起こす

 

 

『絶対製造工場』カレル・チャペック著 飯島周訳を読む。

 

「大企業メアスの社長ボンディ」は、画期的な発明を売却したいという新聞広告を目にする。依頼主は「マレク技師」。大学の同級生だった。開発したのはカルブラートルと名付けられた機械。

マレク曰く、

「ぼくの完全カルブラートルは、完全に物質を分解することで、副産物を創り出す―純粋な、束縛されぬ絶対を。化学的に純粋な形の神を。言ってみれば、一方の端から機械的なエネルギーを、反対の端から神の本質を吐き出すのだ。水を水素と酸素に分解するのとまったく同じさ。ただ、それよりおそろしく大規模なだけだ」

ボンディは、カルブラートルの発明を買い取って量産化する。確かに国や資本家にとっては都合の良い夢のような機械だった。さまざまな産業で導入が進む。たとえば某繊維工場が「ボイラーの代わりにカルブラートル一基を据え付けた」。すると「自動紡績機と織機が勝手に動きはじめる」。ノンストップで織り続ける。労働者は不要となる。ここまでは良かったのだが、過剰生産で織物の価格は暴落する。絶対によるカルブラートルの暴走はクレームの嵐となってボンディの会社に来る。

 

ボンディはドイツやフランス、イギリスへカルブラートルを送り込んで絶対でめちゃくちゃにすることを目論む。

 

山小屋でリタイヤ生活を楽しんでいるマレクの元へボンディが訪ねる。カルブラートルの功罪、絶対について発明者に再度問う。けど無駄足だったかも。

 

やがて絶対はカトリック教会に受け入れられる。そこから話がドタバタしだす。キリスト教イスラム教との宗教戦争が勃発。やがてカルブラートルを導入した国々は絶対=神のしわざで原理主義に洗脳され、本格的な戦争、世界大戦となる。といってもアイロニカルな笑いが行間に地雷のように埋まっているが。

 

この本は第一次世界大戦後に書かれたのでその当時や近未来への不安などが色濃く反映しているのだろう。東洋の島国日本も良い意味でも悪い意味でも世界から脚光を浴びだし、怪しげな日本人将校も出て来る。

 

歴史改編ではなくて未来を予測した小説。第ニ次世界大戦悪い方で当たってしまったが。さらにイスラム主義組織タリバンアフガニスタン制圧などカルブラートルの為せる御業か。

 

日本軍がアメリカ西海岸へ上陸する短いニュースなどは、フィリップ・K・ディックも真っ青。

 

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