AIがドラえもん化するなら、人間はのび太化が進行するのか

 

 

『AIとSF 2』日本SF作家クラブ編   茜 灯里ほか著を読む。


AIが定着した近未来を、さまざまな切り口で展開する書き下ろしアンソロジー。全11篇。新しい作家を知ることができるのは、うれしい。5篇ばかし、さわりを紹介。

 

『竜を殺す』長谷敏司
北川光一は塾の講師兼作家。妻は営業職で単身赴任している。息子の卓史は高校生。大学へ行くよりも好きな音楽の道に進みい。塾の講師を解雇された光一。AIの普及によるものか。作家だけで喰うのは至難の業。彼は作成支援AIで小説を書く。卓史もAI搭載の
スマートホンに依存している。AIの功罪。ある日、卓史が殺人事件を起こす。殺した相手、恋人…。その裏には哀しいドラマがあった。山田太一のTVドラマのような味わい。

 

『I traviati最後の女優』池澤春菜
ディアは「朗読歌劇椿姫」の舞台に立つ。特に「芸術分野であったAIへの反発」も時代の趨勢か、受け入れられるようになった。彼女は「脳内にピピネラと名付けたパーソナルAI」を埋め込んでいる。いつもベストなパフォーマンスができるようサポートしている。しかし、まもなくサポートから「人間の領域を浸食していく」ことを感じていた。そうなる前にディアは手を打とうと。ステージ上で死ぬことでピピネラの浸食を食い止める。寄生生物と宿主の関係にも似ている。

 

『看取りプロトコル』茜 灯里著
少子高齢化さらに人材不足は医師にまで及び「AIドクター(医療用アンドロイド)が訪問診療を行っている」。主人公はAIドクターの「ナディ」。医師の生神とナディは、末期の肝臓がんの近藤を検診に。彼は「火星開拓の任務」があった。「最高の死」を望む。「ナディ」たちの経験をもとに、「終末期医療用アンドロイド」に「看取りプロトコルが実装されることになる」。

 

『月面における人間性回復運動の失敗』海猫沢めろん
月でタクシードライバーをしている「ジョー」。バディは、「車を制御しているAIアシスタントのリサ」。ジョイントをキメてから道を流していると、「軍の精神病院から女性患者が脱走。その際、複数名が殺害された」という近況速報がラジオから。リサがジョーの静止を無視して若い女性を乗せる。なんかヤバい。彼女は「海へ行け」と。タランティーノの映画のように痛快。

 

『X-7329』樋口 恭介著
「意識を持ったAI X-7329」が、霧の深い森を捜査している。最後の人間を排除するために。マンハントするAIは人間由来の意識とAIの拒否反応に悩まされながら任務を推進する。最後にChatGPTで創作したと。さらに具体的なプロンプトを提示している。かなり細かく。ネオサイバーパンクの翻訳物的できばえ。ここまで書けるのか。

 

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