新しい書き手の数だけ新しいSFがある

 

 

『新しい世界を生きるための14のSF』伴名練編 芦沢央〔ほか著〕を読む。

 

「まだSFの単著を刊行していない新世代作家たちの14篇を収録したSFアンソロジー

 

先物買いならぬ先者読み。SFといっても実にさまざまでガチなハードSFからホラーっぽいものや、奇想・幻想、メルヘンっぽいものまで多種多様。ともかく才能のある若い書き手が出ていることは、後継者不足の悩みご無用で実にめでたい。

 

結構分厚く読みでのあるこの本から勝手に選んだ5篇を紹介。

 

『Final Anchors』八島游舷著
AI搭載車が主流を占めた近未来の話。道路を走行する車がすべてAI車だったら、交通事故は限りなく0に近づく。ゆえに自動車保険を扱っている保険会社は次の手立てを考えているという記事を読んだことがあるが。
万が一の衝突に備えて導入されたのがファイナル・アンカー。AIの判断で事故を迅速に予測、生存率が低いと思われる方の運転者を殺すというシステム。ファイナル・アンサーのもじりかな。ぶつかるか、避けられるか、互いの車載AIが瞬時に行う調停、読んでいてハラハラさせられる。

 

『九月某日の誓い』芦沢央著
久美子の父親は科学者だったが、失明して失意の退職、故郷へ帰る。やがて自殺してしまう。つてにより久美子は横浜の三条家でお手伝いとなる。三条家は海軍御用達の造船業。奉公先には同世代の操がいた。
操は「竹久夢二の絵」のような美少女。家族で山へ出かける。迷ってしまった久美子と操。野犬の襲われる。間一髪、念じると、野犬は死んでしまう。レトロで耽美な超能力少女もの。その不思議な力に海軍も食指を動かす。ネタバレになるから書かないが、途中でわかってしまった。

 

『大江戸しんぐらりてい』夜来風音著
江戸時代、関孝和に代表される独特の和算が数学を発展させたとか。ならば、いっそのこと、関孝和らが和算から進んで和コンピュータを実は完成させていた話はどうだ?
いやあ面白い。それが「江戸時代において大規模数値計算を可能にした」「算術長屋」。「48棟」ある算術長屋では「演算士」がかいがいしく働く。
人力コンピュータにより徳川光圀の命を受けた柿本人麻呂歌集を解読する。江戸の技術的特異点を描いた話。

 

『それはいきなり繋がった』麦原遼著
おなじみパラレルワールドもの。コロナ禍のように感染症が蔓延している「こちら側」。ところが、偶然発見された「向こう側」。ミラーサイト的世界なのだが、
感染症は流行っていない。「こちら側」から「向こう側」への大胆な移住を試みる。
「対」となっている自分とそっくりなもう一人の自分と対面するのは、どんな気持ちだろう。広瀬正の『鏡の国のアリス』を思い出した。


無脊椎動物の想像力と創造性について』坂永雄一著
クリストはかつてパリの凱旋門を梱包するインスタレーションで人々を驚かせた。ここでは、京都の名刹や建物などが蜘蛛の糸で覆われる。糸は強固で派遣された多国籍軍は、これ以上の増殖を防ぐために次々と焼却していく。京都は応仁の乱以来の焼け野原?。世界を「蜘蛛のコロニー」にしてはいけない。でも、ウルトラマンは登場しない。この蜘蛛たちは「蜘蛛女」と呼ばれる亡くなった女性科学者・葛城によって創られた。

 

それにしても各篇ごとに掲載された編者のコラムの濃いこと。いまの作家も良いのだが、旧いもの好きのぼくとしては、ほとんど未読の過去の名作が紹介されていてありがたい。

 

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