「人類未来論」をテーマにしたアカデミックな書であって、SFチックな予言の書としても読める。ぼくは、後者の方

 

『宇宙・肉体・悪魔-理性的精神の敵について-新版』J.D.バナール著 鎮目恭夫訳を読む。

 

「人類は、進化して人類となって以来つねに、そして現在もまた、次の3種類のたたかいに取り組んできた。第一は自然界の巨大な非生物学的な諸力、暑さ寒さ、風、河、物質とエネルギーなどである。第二は、それよりももっと身近な動物と植物および人間自身の身体、その健康と疾病である。そして第三は、人間の願望と恐怖、想像力と愚かさである」

 

この「3種類のたたかい」について考えを展開している。確かに、これにすべてが集約されるような気がする。

 

「第二章 宇宙」では、人類の宇宙開発や宇宙植民島(スペースコロニー)の建設を述べている。しかも、宇宙植民の具体的な設計プランまで。さらに「太陽の破滅」に備えての太陽系以外の宇宙への移動方法なども。言い回しとかは古くさいのもあるが、言っていることはなう。「1929年」に発表されたとは驚き。

 

「第三章 肉体」では、「人体諸器官の非能率さ」を改善するため、あるいは「不死」に近づくための「人体改造」を取り上げている。「機械化人類」さらに「人工生命」の創造。AIや人工臓器なども。言うなればサイボーグやアンドロイド。どことなく優性思想っぽさを感じるのだが。

 

「第五章 統合」では、「宇宙への植民と身体の機械化の相補的な関係」について述べている。自由な空間移動と時間移動を示唆している。「未来の機械化人または共同体化人は感情的であるのか理性的であるのか」。この提起もSFの大きなテーマの一つだ。
ロシアのロケット研究者コンスタンチン・ツィオルコフスキーが液体燃料ロケットの打ち上げに成功したのが、1926年。大いに刺激を受けて創造力を膨らませたのだろう。

 

巻末の瀬名秀明の解説が素晴らしい。どこが素晴らしいか、引用。

 

「本書の主張はイギリスのSF作家オラフ・ステープルドンアーサー・C・クラークに絶大な影響を与え、その精神性はさらに彼らの小説作品を通して今日まで多くのSF作家、SF愛好者に受け継がれてきた。―略―本書を一読すればこれまで何気なく接してきた多くのSFアイデアがすでに書き記されていることにきっと驚かれるはずだ」

 

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