あげるな。誉めるな―学校、家庭、会社での報酬を批判する 

 

 

本書は、「広く支持されている『競争』に異を唱え」、名著の誉れ高い『競争社会をこえて』の続編ともいうべき作品。まずは、アメリカ社会の根底を支えている行動主義批判から始まる。行動主義について作者はこう述べている。

「われわれは考えるよりも行動することを、理論よりも実行を選ぶ国民であり、インテリを信用せず、テクノロジーを崇拝し、帳尻を合わせることから離れられないのだ」

いやあ、鋭い。アメリカに歯向かう敵対勢力に対するアメリカ(政府)の態度は、この一文に集約されるのではないだろうか。

 

その行動主義の最たるものが、報酬であると。報酬は何も子どもに勉強をやらせるためだけの手立てではない。「報奨」「褒美」「賞」、「インセンティブ」…。ノルマを達成したら報償金がもらえる営業マンなど、学校、会社、家庭、考えてみれば、この世は報酬だらけである。

 

また「誉める」ことも作者は「言葉による報酬」だと規定し、批判している。叱り上手より誉め上手になろうなどとその手の育児書やビジネス本が山のようにあるというのに。そのいわば一般常識だと思われていることを、実証例を踏まえながら、実に小気味よくロジカルに反論している。その反論が、なるほど!と、無理なく自然に入って来る。

 

たとえば、読書。本を読んだ子どもに、褒美としてお菓子を与える子と、本を読んでも何も与えない子がいる。褒美につられて、読書する子は、最初はよく読むが、やがて褒美の魅力が低下すると何も与えない子よりも本をよく読まなくなることが紹介されている。同様に、出来高払いも、社員を鼓舞させるカンフル剤には決してならないと。いわゆるアメとムチは百害あって一利なしと。

 

モノで子どもを釣るのは良くないといわれるが、それはたいていは道徳心から来るものであるが、このようにデータで実証的に示されると、考えざるを得ない。では、馬の鼻先にニンジン作戦でないとするならば、どのようなことをすれば、動機づけ、流行の言葉でいえばモチベーション、それになるのだろう。

 

そんなときは、巻末の事項索引を引いてみよう。丁寧につけてある事項索引は、先生、親、管理職、それぞれ立場は違えども、たぶん、それぞれに、役に立つ。

 

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