オオカミよ、狼狽するな!狼煙を上げろ!

 

 

『オオカミ県』多和田葉子文 溝上幾久子絵を読む。

 

「俺」は、オオカミ県に生まれた。
「狼」ではなく「大神」が由来らしいのだが。

 

オオカミ県以外のところを知らないのだが、
「インターネットの書きこみ」で
オオカミ県への「悪口」を読む。

書きこみ主は「都会の白兎」だと母親に教えられる。

 

都会とは東京のことらしい。

そこでは「白兎」でなくても
それこそオオカミやイタチやアライグマやサンショウウオでも
「白兎」の体(てい)で、「白兎」になりすまして暮らしているそうだ。

 

「白兎」たちは郊外の兎小屋から満員電車に乗って会社へ行く。
あ、最近はリモートワークの「白兎」たちも多いのか。

 

オオカミ県出身の「俺」は、都会・東京に出ることにした。
東京へ出稼ぎに行き、蒸発した父親も探したい。


「俺」は運よく「オオカミカフェ」のウェイターとして働くことになった。
オオカミ県出身のことは口外しない方がいいと「店主」から言われる。
「俺」も「白兎」のふりをしなければならないのか。

 

「風の噂」というサイトで
「オオカミ県で蚤が大量に発生した」ことを知る。
はじめはフェイクニュースだと思っていたが、ほんとうらしい。

オオカミ県に視察に来た官僚兎男たちのしわざと知る。
狙いはオオカミ県を困らせて、あるものをつくるため。
原発ではないが、似たようなもの。お上の汚いやり口はおんなじ。


「俺」は故郷を守るために、オオカミになることを決意する。

 

オオカミ県ってオオカミ犬にもかかっているのだろうか。

 

童話のような民話のような話。
ふと、作者の『犬婿入り』を思い出した。

 

にしても、多和田葉子の文章も溝上幾久子の銅版画も
字解き・絵解きにはなっていない。

 

文章を読んでから絵を見る。画を見てから文章を読む。
その不可思議な世界に吸い込まれる。

 

かくいうぼくも随分長いこと、「白兎」のなりすましをしている。


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