ヴァージニア・ウルフなんかこわくない。いや、こわい。いや、かわいい

 

 

読んだ気になって読んでいなかった『ヴァージニア・ウルフ短篇集』ヴァージニア・ウルフ著 西崎憲編訳を読む。とりあえず何篇かの感想やあらすじなどをば。あらすじ書いてもなあとは思うが。

 

『ラピンとラピノヴァ』
ロザリンドとアーネストは新婚ほやほや。ハネムーンの最中、夫アーネストがウサギに似ているのでウサギごっこに興じる。夫を「ラピン王」、妻を「ラピノヴァ」とウサギの名前で呼び合う。そんな秘密の遊戯があることで彼女は金婚式を迎えることができた。しかし、夫はすでにそんなことはわからない。覚えていない。失望する妻。遊戯の終わりが夫婦の終わり。なんか他人事ではないぞ。

 

『青と緑』
言葉で構築された豊饒かつ美しい緑と青の世界。散文詩だよね。なぜ作者は詩を書かなかったのだろうか。「玻璃(ガラス)」といったルビ付き漢字など訳者が苦心した文章がグー。

 

『乳母ラグトンのカーテン』
乳母のラグトンは膝に大きなカーテンを広げたままいびきをかいて眠っている。すると、カーテン柄の象、縞馬、麒麟、虎、駝鳥などが抜け出す。幻視なのか、あるいはシュールレアリズムやマジックリアリズムの手法なのだろうか。ラグロンが目を覚ますと、慌ててカーテンに戻る動物たち。ふとNHK『みんなの歌』あたりのアニメーションが浮かんだ。

 

『外から見たある女子学寮』
女子学寮の全景からアンジェラたちの部屋にズームインしていく。この冒頭部を映像化すらならドローンからの引きの絵だろうか。寮の厳しい規律。服従する気持ちと反駁する気持ちのせめぎ合い。殻を破りたいと思う二十歳前のアンジェ。レズビアンつーかガーリッシュ度が濃厚な作品。

 

『憑かれた家』
確かに二人はいる。姿は見えないが、物音がする。気配を感じる。「一組の男と女」はドアを開閉し、歩き回る。この家に、何が。当然謎解きや謂れなどあるわけもない。い~やな怖さだけが残る。

 

『キュー植物園』
植物の精緻な描写から入る。そこへやって来た人々の描写へ。ある男はかつて求婚した女と来園したことを妻に話す。気にならない妻の態度を訝る。突如、花壇をゆっくりと動く蝸牛によっていく。そして次の人々を描く。来園者の心理描写と蝸牛の描写の対比。

 

『壁の染み』
壁の染み一つで想像がどんどんふくらむ。これが「意識の流れ」?その観察力と妄想力。いったい壁の染みは何だったのか。読み手にさんざん期待させておいて結末で作者は梯子を外す。ぼくがホラー小説にいかに染まっているかがわかる。

 

『書かれなかった長篇小説』
女性の不幸そうな顔つき、タイムズ紙の記事、それを読む男、列車に乗っている「私たち」。乗客は私と不幸そうな女だけになった。それぞれにそれぞれのオリジナルなストーリーがある。読んだ人の多くが思うだろうが、締めの文章がポジティブで素晴らしい。

 

先日、編訳者のtwitterでこの本の新版が出ることを知る。ツイートをまんまコピペ。

「とりあえず年内、ちくま文庫に作品を追加したヴァージニア・ウルフ短篇集がたぶん出ます。解説も含めてアップデートした、2021年のヴァージニア・ウルフ
ご期待ください。短篇2作、スケッチ3作が追加で、解説大幅改稿、加筆です。」

 

楽しみ、楽しみ。

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