『左川ちか詩集』 左川ちか著 川崎賢子編を読む。
中学の時、現代国語の教科書に西脇順三郎の詩が載っていた。そのモダンさ、日本語の豊饒さに眼をひらかされた。新潮文庫から出ていた西脇の詩集を買って、よくわからないまま読んでいた。
この詩集もそうだ。モダンさがキラキラしている。しなやかな感性から生まれる言葉がナイフのように尖っている。卓越した言葉のモンタージュとでも言おうか。なんだけど修辞に秘められた作者のエロスやパトス。それに、やられたのかもね。
どこかバタくさいのは、彼女が北海道・余市の出身もあるのだろう。彼女の兄と伊藤整が親友で伊藤が彼女の翻訳の師匠となって手解きを受けたそうだ。で、ジョイスを訳す。
彼女は伊藤に恋心を抱いていたそうだが、彼には友人の可愛い妹という存在だったのだろうか。
「詩篇」77篇から好きな2篇を引用。
「 昆虫
昆虫が電源のやうな速度で繁殖した。
地殻の腫物をなめつくした。
美麗な衣裳を裏返して、都会の夜は女のやうに眠つた。
私はいま殻を乾す。
鱗のやうな皮膚は金属のやうに冷たいのである。
顔半分を塗りつぶしたこの秘密をたれもしつてはゐないのだ。
夜は、盗まれた表情を自由に回転さす痣をのある女を有頂天にする。」
最初のこの詩でKOされた。
「海の天使
揺籃はごんごん鳴ってゐる
しぶきがまひあがり
羽毛を搔きむしったやうだ
眠れるものの帰りを待つ
音楽が明るい時刻を知らせる
私は大声をだし訴へようとし
波はあとから消してしまう
私は海へ捨てられた」
どことなくヴァージニア・ウルフを感じさせる。
「小文」4篇は、最果タヒあたりが書きそうなエッセイって感じ。
川崎賢子のあとがきより引用。
「塚本邦雄は左川ちかの詩を「生きながら屍毒(プトマイン)に満ちた」ものと読んだ」
著者のことをゴスロリのメガネっ子。なんて言うと、顰蹙を買うかな。