風街は、何処に在る

風のくわるてつと (立東舎文庫)

『風のくわるてつと』松本 隆著を読む。


嘘のような話だが、かつて、日本語ではロックは成立しない。というのが、まかり通っていた頃があった。その定説を覆したのが、何を隠そう、松本隆である。はっぴいえんどのドラマー兼作詞家から、アグネス・チャン原田真二松田聖子からキンキキッズまで膨大な数のヒット曲を生み出してきた。

 

ブロンズ社版のオリジナル『風のくわるてつと』は、友人から、たぶん、借りて読んだと思うのだが、記憶に残っていない。改めて、文庫で読んでみると、忘れていた記憶の断片が甦ってきた。

 

高校の時、友達3人と詩集を作った。英文タイプ用紙を大量にパクって、新聞部にあったガリ版でこしらえた。なにせ、新聞部だったもので。ぼくは、当時かぶれていた中原中也西脇順三郎もどきの詩を何篇か載せたが、いまだから、コクるが、ほんとは松本隆だった。メンバーに、もっともろ松本隆というのがいたもので、カミングアウトする機会を逸して早うん十年経ってしまった。はっぴいえんどが解散したのは、高校3年の時だった。中学3年の時に、ビートルズが解散したことよりもぼくには、インパクトが強かった。

 

LPレコードのライナーノーツの横組みの歌詞を懸命に覚えた。リリカルでおしゃれな文学青年の匂いが、たまらなかったのだろう。『風街ろまん』の宮谷一彦が描いた都電のジャケットや『新青年』あたりを意識したルビ付きの古い言い回しなど、そこに、消え行く東京の原景を垣間見ていたのかもしれない。『ゆでめん』の、林静一のイラストレーションのジャケット。矢吹伸彦のポール・デービス風ベスト盤『CITY』のジャケット、WORKSHOP MU!の一連のアメリカンポップなデザインワーク。ここにも、松本隆の趣向が反映されていたようだ。

 

本書は、作者が二十歳前後に書かれたものである。はっぴいえんど大滝詠一南佳孝らに書かれた詩(詞)が中心に掲載されている。その前後に挿入されたエッセイや短篇小説は、いま読み直すと、作者も述べているように、ちょっと気恥ずかしい。若さがまぶしいっていうんでしょうか。

 

こうして文庫でその縦組みの歌詞を眺めると、とても新鮮なのだ。ただ、懐かしいだけではない。『花の首飾り』や『十七才』など昨今のカバーブームと根底は同じような気がしてならない。それにしても、二十歳そこそこで、時には老成したような歌詞を、書いていたものだと思う。読んでいるうちに、佐々木マキますむらひろしなど、『ガロ』のモダン派の漫画家たちを思い浮かべてしまった。

 

当り前だけど、松本隆は、やはり作詞の人である。小説や、ましてや映画などに色目を使わず、いつまでもその時代のティーンズの少年・少女のハートをつかむキャッチーな詞を書き続けていてほしい。かくなる上は、中古CDショップで松本隆集大成である『風街図鑑1969-1999』をゲットせねば。

 

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