『甘美で甘いキス 吸血鬼コンピレーション』山口雅也、菊地秀行、新井素子、京極夏彦、澤村伊智他著を読む。
作家としてはもちろんアンソロジストとしてもリスペクトしている山口雅也。
彼が総指揮した吸血鬼のコンピ本。
内外の吸血鬼小説、山口雅也×京極夏彦の対談「吸血鬼vs日本の吸血妖怪」。
さらに吸血鬼に関するロック、菊地秀行・山口雅也による吸血鬼映画レビューなど
この1冊で吸血鬼が丸ごとわかる。楽しくないわけがない。
ぼくが気に入った小説は。
『吸血鬼』ジョン・ポリドリ著 平井呈一訳
今のような吸血鬼をディファクトスタンダード化した作品。
オーブリーはロンドンでルスヴン卿と知り合いになる。二人は欧州旅行に行くが、ローマで喧嘩。単身ギリシャに行ったオーブリーは宿屋の娘イアンテと恋仲になる。彼に吸血鬼の謂れを話したイアンテ。喉を切り裂かれて殺された。そこにルスヴン卿の影が。
吸血鬼ルスヴン卿のモデルとなったが詩人のバイロン卿。
その裏にあるバイロン卿の「主治医だったが解雇された」ポリドリの愛憎劇。
『ヘンショ―の吸血鬼』ヘンリー・カットナー著 朝倉久志訳
二度目のハネムーン中、激しい雷鳴と豪雨に見舞われ古い宿に避難するチャリ―とロザモンド。薄気味悪い老人が中に入れてくれた。世間話をしていると、このあたりに吸血鬼が出没すると。ウイスキーをすすめる娘もなんだか怪しい。『ヘンショ―の吸血鬼』の家族か。オチが素晴らしい。落語にアレンジすれば優れた怪談噺になる。
『おしゃぶりスージー』ジェフ・ケルブ著 夏来健次訳
バーのトイレに「スージーがおしゃぶりしてあげる」という落書きが。そこに書かれたてあった電話番号はマイクの自宅の番号だった。スージーは理由があって一緒に暮らしている女の子の名前。偶然にしてはでき過ぎ。不動産屋のマイクの頭に大きな疑問符。ある日マイクは外出したスージーの後を追う。すると落書きと同様の行為を目撃。しかし、スージーの牙のような犬歯、口元は血まみれだった。相手の男は天国から一気に地獄へ。吸血する部位はいろいろ。
『頭の大きな毛のないコウモリ』澤村伊智著
保育園でのシングルマザーと保育士の連絡ノート。はじめは息子・猛人の園でのことや家庭のことなどが記されていた。猛人が園児に噛まれてから異変が起きる。あちこち噛み傷が。いじめではないようだ。食欲がなくなった息子に母親は血を吸わせる。保育士はそのことが書かれたノートを読んで心が病んでいると常識的な判断をしたが。この保育園では以前にも同じような事件が起きていた。その後に働き始めた保育士は知るよしもない。うまい、うますぎる。書き下ろし。
『ここを出たら』新井素子著
乗っていた高層ビルのエレベーターが地震で動かなくなる。「緊急連絡用の電話」も通じない。いつまで閉じ込められるのか。見知らぬ同士が生存のために手持ちの食べ物などを出し合い、分け合って食べる。パニックになる人が出ないのはリーダー的立場の男性がいるからだ。「フリーター里山多恵」は、真っ暗で容姿がわからないこの男に好意を抱く。しりとりなどして時間をつぶす。ようやく復旧となるが、多恵は逃げ出す。
彼女は吸血鬼だった。マジでリーダーの男を狙う。好き、吸いたい。初の新井作品。軽やかな文体。これから読んでみようかな。