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新井素子SF&ファンタジーコレクション3 ラビリンス<迷宮> ディアナ・ディア・ディアス新井素子著 日下三蔵編を読む。

 

『扉を開けて』は、西の国が舞台だったが、『ラビリンス<迷宮』は隣接する東の国、『ディアナ・ディア・ディアス』は南の国が舞台。『扉を開けて』の感じなのかなと思ったら、まるっきり違っていた。こちらは、ぼくの狭小なSF知識からみると、萩尾望都やアーシュラ・k・ル=グウィンの世界とつながっている。物語の構造やテーマは今読んでも楽しめる。

 

『ラビリンス<迷宮>』
15歳だが狩りの腕前は男性を凌ぐサーラ。神官の娘で賢明なトゥードは、「神」への生贄として神の住まいである迷宮に送られる。

「神」は豊かな知恵を人間に供与してくれるが、生身の人間を貪る怪物でもあった。創造主でありながら人間を食べることで生きている「神」の自己矛盾。二人はラビリンスで「神」と激しいバトルをしながら「神」の存在を再確認する。王道の女性バディものといえる。

 

ディアナ・ディア・ディアス
冒頭に「ディア(ディアナ・ディア・ディアス)は、二面神である」「ディアを両性具有神としているのは、二つある頭部である」と出て来る。「女がディアナ、男がディアス」。つかみですっかりつかまれてしまった。

王位の第一継承者である兄リュドーサが突然亡くなって、王位を継承することになったカトゥサ。「高貴なる血」をひく者だけがその資格があるのだが。王位をめぐる権力争い。そこに産まれる悲劇の恋愛。オペラでも見たい英雄譚。

 

『週に一度のお食事を』
電車の中で中年男に「首筋をキスされた」「あたし」。男は痴漢ではなくて吸血鬼だった。当然、吸血鬼になったあたし。食欲はなくなる。で、ボーイフレンドの「首筋にかみつく」。吸血鬼カップルになった二人。どの人の首筋がおいしそうか品定めをする。ねずみ算式に吸血鬼が増え、権利を主張しはじめる。一種のほら話風で笑える。

 

『宇宙魚顚末記』
女子大生のひろみは作家志望。小説がうまく書けないし、彼からは音信不通で気分は鬱気味。高校時代の友人「佳拓」と「美紀子」と3人で海に行く。美紀子が海辺で「美しい水色の壜」を拾う。壜を投げるとそこから女性が現れる。「悪魔」と名乗った彼女は3つの願いを叶えると。ひろみは彼が違う女性にラブしていることを知り、ついかっとなって「みんなお魚にたべられちゃえばいい」とお願いする。
すると巨大な魚が空に漂いだす。魚は地球を食べつくすのか…恋の痛手が地球破滅の引鉄になりかねない。著者、従来路線の作品。若者のダ話やありがちなテーマからチャーミングなSF小説に仕上げてしまうのは、恐れ入るしかない。

 

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