幽霊百景―幽モア、幽トピア、幽アンドミー

 

 

『いろいろな幽霊』ケヴィン・ブロックマイヤー著   市田 泉訳を読む。 


イタロ・カルヴィーノ短編賞受賞作家による幽霊譚。2頁で一話。計100話。
みながみな怖いわけではなく、滑稽だったり、奇妙だったり、ファンタジーだったり、甘酸っぱかったり。意外な視点やアングルから描かれる幽霊たち。


わずか2頁だが、作者は自由自在に話を展開する。なんつーか小宇宙かと思ったら大宇宙だった、そんな感じ。精緻につくられた作品から何篇かピックアップ。

 

『どんなにさささやかな一瞬であれ』
主人公は方向音痴の女性の幽霊。なんとか「憑りついている家」に戻ろうと、人間に声をかけるが、無視される。焦る彼女。偶然一部始終を目撃していたホットドッグ売りの男。彼は彼女に出て来た家の目印を教える。途端に消えてしまった幽霊。

 

『ミツバチ』
ミツバチにそっくりな幽霊。「生の世界と死の世界の」際に巣をつくる。ミツバチは花の蜜を吸うが、幽霊たちは死者から幽体エネルギーを吸う。たらふく吸って体はまんまる。ミツバチは蜜を吸うときについた花粉を受粉させる大事な働きがあるが、そのあたりは定かではない。

 

『来世と死の事務処理機関』
「初老の男」が幽霊としてお迎えの準備OK!という手紙を受け取った。ただし、それには25ドルの小切手か為替が必要。霊界の沙汰も金次第なのか。送ったはずが届いていないと。連絡先に電話して生年月日を伝えると、先方が誤入力していた。電話に出た女性が、再び、間違えてしまった。すごい間違い。

 

『小さなロマンスとハッピーエンドを含むタイムトラベルの物語』
コインローファー(ペニーローファーともいう)は、甲のベルトの穴にコインを挟むことから、その名がついた。コインローファーを愛する少女は、同じくらい「タイムスリップの物語」を愛していた。タイムスリップの方法は、「1932年に行きたいならば1932年製の硬貨」を挟む。

 

『香り(ブーケ)』
彼が亡くなった。声はおろかにおいまで消えてしまった。何か月後、彼女がキッチンに立っていたら、彼の香りがした。彼女は、まさかと思ったが、それ以降彼のにおいがあちこちでする。姿は見えないが、ああ彼だと。彼女は香りで彼と確認し合った。彼女が亡くなった。二人は晴れていっしょになった。なんだか雨月物語っぽい幽玄感が。

 

『陽ざしがほとんど消えて部屋が静かなとき』
人間に憑りつくのが得意な幽霊だが、この男の幽霊は「幼児の体に」幽閉されてしまった。いかんせん抜け出ることができない。かくなる上は幼児が大人になって老いて衰弱して死を待つしかない。肉体は衰えるが、幽体は衰えないとされているが、こともあろうに「虜になって43年目のなかば」幽体が肉体に崩壊させられる。そ、そんな…。薄れていく意識。

 

百物語だと百話怪談を話し終えると、幽霊が現われるというが、百話読了しても、いまのところ、それらしい兆しはない。ひょっとしたら、すでに、幽霊に憑りつかれているのかもしれない。あるいはいろんなところから覗かれているのかもしれない。

 

表紙の幽霊たちのイラストレーションがポップでかわいい。Tシャツがあったら、買うかもな。

 

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