「芸術とは人が労働のなかで得る喜びの表現」「人が仕事に喜びを覚えていた時代があった」byウィリアム・モリス

 

 

『ゴシックの本質』ジョン・ラスキン著  川端康雄訳を読む。

 

「ゴシック」でも小説ではなく建築の方。114の断片でゴシックの魅力と建築にかかわった職人を礼賛している。

 

〇ゴシックの特徴について

私見では、ゴシックの特徴的な要素、すなわち精神的要素を重要な順に並べると以下のようになる。

(1)荒々しさ(2)変わりやすさ(3)自然主義(4)グロテスク性(5)剛直(6)過剰さ

これらの特徴は建物に備わった場合にこう表現できる。建てた人間に備わったものとしては、以下のように表現できるだろう。

(1)荒々しさ、あるいは粗野(2)変化への愛(3)自然への愛(4)奔放な想像力(5)頑固さ(6)寛大さ」

〇ゴシックの語源とゴシックへの非難に対して

「「荒々しさ」。「ゴシック」(ゴート族)なる語が最初に北方建築の総称として適用されるようになったのがいつのことか詳らかではない。―略―それが避難の意を暗に含み、その建築を生み出した諸民族の野蛮な特徴を表現しようとしたものだったということは推測できる。―略―なるほど北方の建築は粗削りで粗野である。それはたしかにそのとおりなのであるが、だからといってそれを断罪し軽蔑すべきというのは正しくない。まったくそれと逆で、まさしくこの特徴があるからこそ、その建築はわれわれが深い敬意を表するに値するものなのだと私は信じる」

ゴシック建築につきもののゴブリンやいかめしい彫像は職人たちの「生命と自由のしるし」

「古い大聖堂の正面をみつめてみよう。そこにみられるむかしの彫刻師の途方もない無知をあなたはたびたび笑ってきた。あの醜い小鬼(ゴブリン)や不格好な怪物、そして解剖学を無視したぎこちない姿のいかめしい彫像をいま一度吟味していただきたい。だがそれらをあざ笑ってはならぬ。なぜなら、それらは石を刻んだ職人ひとりひとりの生命と自由のしるしなのだから。それは思考の自由と人間という存在の位の高さを示すもので、それはいかなる法則や証文や慈善によっても得られぬものなのである。そして今日のヨーロッパ全体が第一の目標とすべきなのは、そこで生まれる子らのためにこれをとりもどすことなのだ」

〇自然への愛が反映されている植物の装飾はゴシックの意匠の特徴

「ゴシックの工人たちは「植物」の形態をとくに好んでいた」「植物の優美さと外的な特徴を愛情細やかに観察できるというのは、大地の恵みによって支えられ、大地の壮麗さに喜びを覚えるもっと平安で穏やかな暮らしの豊かな暮らしの確かな表象なのである」


〇グロテスクとは

「グロテスクは「奇妙な」「奇怪な」といった意味で一般化している英語(および仏語)だが、本来は人間や動物や植物、空想上の生き物などをあしらったアラベスク文様の一名称だった。15世紀末にそうした文様を含むネロの宮殿がローマの地下から発掘されたために「グロッタ(穴ぐら)の文様」の意味で「グロッテスキ」と名づけられたことにちなむ。新古典主義の時代には「グロテスク」は主として否定的な意味を有するものだったが、ロマン主義以降、古典主義的な美学の範疇を超えた美の要素として積極的にとらえなおされるようになった」(訳注(3)より一部引用)

ウィリアム・モリスの序文より引用。
ラスキンは、ここでわれわれに次のような教訓を与えてくれているからだ。芸術とは人が労働のなかで得る喜びの表現であるということ。人が自分の仕事に喜びを見いだすことは可能であること―というのも、今日のわれわれには奇妙にみえるかもしれないが、人が仕事に喜びを覚えていた時代があったのだから」

 

『ブルシット・ジョブ   -クソどうでもいい仕事の理論-』デヴィッド・グレーバー著の下記の箇所がリンクする。

「さらに、多くのフェミニスト経済学者が指摘しているように、すべての労働はケアリング労働だとみなすこともできる。というのも、たとえば橋を
つくるのであっても―略―つまるところ、そこには川を横断したい人々への配慮(ケア)があるのだから」


この流れがやがてウィリアム・モリスのアーツ・アンド・クラフツ運動となる。ジョン・ラスキンの「美学と思想」は、柳宗悦に大きな影響を与え、民藝運動となった。


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