理不尽さを嘆いても、でも嘆きたい

 

モンスーン (エクス・リブリス)

モンスーン (エクス・リブリス)

 

 


『モンスーン』ピョン・ヘヨン著 姜信子訳を読む。
日本語訳は必ずしも作品発刊の年代順ではないので
それまでの作品との単純な比較はできない。
あえて言うならば、この作品は
それまでのむきだしのグロテスクさが抑えられている。
抑制がきいている分、読んでから
人のグロテスクさ、人生の理不尽さ、むごたらしさが伝わってくる。
 
表題作の『モンスーン』
子どもをふとしたことで失った夫婦。
なんとか乗り越えようとするが、夫婦間の小さな亀裂が
リペアできずに致命傷となる。
どこでボタンをかけ違えたのだろうか。
チェルフィッチュの芝居のよう。
って、テレビでしか見たことがないのだけど。
 

『同一の昼食』
会社員になると毎朝乗る電車、車両が決まって来る。
すると話はしたことはないが、おなじみに人が出て来る。
駅の降車口、会社の道順も同じ。ルーティン化する。
判で押したような毎日を過ごす男。
同じ仕事、同じ昼食。
でも、今日という日は人生に1回しかない。
同じようでもどこかしら違っている、違ってくる。
変化を望まない男が外的要因で小さなアクシデントに巻き込まれる。
って立派なイヤミス。これはうまさが光る。
 
『カンヅメ工場』
工場長がある日、欠勤する。
真面目にもくもくと働く男。どこへ、なぜ。
工場長の秘密がさらされる。
途中からオチはわかったが、はっきりとは書いていない。
音楽ならスロッビング・グリッスルあたりか。
デヴィッド・リンチの『イレーザー・ヘッド』につながる世界。

『少年易老』
子どもの頃、親戚や祖母の家に泊まるのが楽しみだった。
広い家で見慣れないものがあるとわくわくした。
この話もそう。主人公の少年は、
父親が「工場経営者」の友人宅で歓待された。
息子のオンリーワンの友人ゆえ。
父親が重篤な病に罹患していることを知る。
隠蔽していたが、亡くなってしまう。
経営者を失い、屋敷を手放すことに。
人が死ぬことを間近で体験した少年たち。

ピョン・ヘヨンの過去レビュー