厚い!高い!止まらない!

 

 

ある作家が気に入るとたて続けに読みたくなる癖がある。
この作家もそのようだ。
ポケミス最厚といわれている『死者の国』ジャン=クリストフ・グランジェ著 

高野優監訳 伊禮規与美訳を読む。

 

主人公はパリ警視庁犯罪捜査部第一課課長・警視ステファン・コルソ。
パリの裏通りでストリッパーが惨殺される。
コルソたちが担当になる。
バルバラ以下チームの面々が個性的、一芸に秀でている。
有力な情報を得られないうちに次の殺人が。手口は同様。
二人はストリップ劇場の同僚だった。

 

コルソは不幸な生い立ち。父親を知らず母親からは虐待。
家を出るが、同性愛の薬の売人にもてあそばれる。
彼は売人を殺す。そこから救いの手を差し伸べたのが
現犯罪捜査部長のボンパール。
彼女の支援でコルソは更生して警察官となる。

 

射撃の名手で捜査には手段を選ばないタイプ。

エミリアとの間に一人息子のタデがいる。溺愛しているが、離婚調停中で
なかなか会えない。
エミリアは東欧出身。美人でかつエリート官僚という才媛。

きっかけは前夫の暴力に苦しんでいる彼女からの依頼。
惚れてしまった弱味。警察特権をつかって夫を貶める。

 

結婚してわかったのは、彼女がハードSM愛好者だったこと。
プレイに耐えられなくなったコルソ。
すると前夫と同様に夫からのDVを訴える。
なんとか漏えいを防いではいるが。

 

殺された二人のストリッパーはSMプレイが趣味だった。
SMポルノ動画にも出ていた。

「ナワシ(縄師)」や「キンバク(緊縛)」が出て来る。
世界に通じる日本語か。

 

警察OBの老人の情報提供から容疑者が浮かび上がる。
フィリップ・ソビエスキ。現在は画家として名を馳せているが、
強盗殺人の前科あり。服役中に絵の才能に目覚める。

このキャラが強烈。ヒールが魅力的だと話もぐっと良くなる。


コルソは資料を読む。生い立ちが似ている。
強姦事件も起こしている。

直観で彼が犯人だと思い、証拠を集める。


ソビエスキのものと思われるスケッチブックには
殺された二人のストリッパーはもとよりなんとコルソの妻の絵も。

 

ソビエスキは留置場に送られるが、確証は得られず保釈となる。
すかさずイギリスへ行く。ソビエスキのリュックに仕込まれたGPSで居場所は丸わかり。追うコルソ。イギリスでも同様の殺人が起こる。

 

逮捕され、裁判。やり手の女性弁護士クローディア・ミュレールが登場。
「真犯人は別にいる」冤罪であることを主張する。

子どもとの暮らしを優先して部署を移動したコルソは、裁判を傍聴する。
彼女にはチームコルソがつかめなかった有力情報があった。
形勢は逆転するように見えた。

 

結審間際に有力な証拠が発見される。
ソビエスキは有罪となる。大嫌いな刑務所へ。

 

コルソは、なぜかクローディアに惹かれていた。

ソビエスキは刑務所で自殺する。

その1週間後セーヌ川河畔で同様の死体が見つかる。
クローディアだった。

 

最後に伏線が回収されるが、この謎ときには意見が分かれるところ。

 

グロいSMやポルノシーンや猟奇的な殺人シーンの前半、
一転して法廷シーンが続く中盤、
コルソとソビエスキとクローディアとの関係が明かされる終盤
合間合間に派手なバイオレンスシーンやカーアクションシーン。

 

「解説」では「現代のゴシック・ロマンス」と評している。

コルソが育った「パリ郊外の高層マンション」やソビエスキの「秘密のガレージ」
クローディアの眠る墓地のシーンで彼女からの手紙を読むシーンは、
そうかもしれない。

 

骨格は古くさいつーか普遍的な、たとえばデュマあたりが得意とした
波乱万丈の大きな物語復権を狙っているのでは。


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