『ナマケモノ教授のムダのてつがく -「役に立つ」を超える生き方とは-』辻信一著を読む。
確か、「スローライフ」の提唱者、文化人類学者で、大学の先生でもあった著者の本をはじめて読んだ。やさしいチャーミングな言い回しで、「そうだよな!」「そうだったのか!」ということばかり述べている。
「ぼくたちはよく「ムダだ」と断定する。―略―しかし、そう断定してしまっていいのだろうか。「役に立たない」と決めつけていいのだろうか。それは物事に秘められているある可能性を否定してしまうことになるのではないか。「何かの役に立つか、どうか」という見方のうちに収まりきらない意味をみすみす見失ってしまおうのではないか。もしそうなら、それはあまりにも「もったいない」」
「ムダじゃ、ムダじゃ」が口癖なのは「ムーミン」に出て来る哲学者のジャコウネズミだが、ひょっとしたら、「ムダじゃない、ムダじゃない」と宗旨替えしているかもしれない。
「ムダをはぶくことが重要視されている。―略―断捨離派もミニマリストも、ムダをはぶけるだけはぶいて、時間やスペースを節約し、自分の自立度や自由度を高めることを目指しているように見える。しかし、どうだろう」
『不思議の国のアリス』に出て来るいつも時計を見ながら急いでいる白うさぎを思い出す。今なら歩きスマホをしながら歩いているかもしれないが。
「テクノロジーの進化が時間のゆとりを生むという幻想」
「テクノロジーのおかげで、ぼくたちははたして、前より自由な時間が増えて暮しにゆとりができただろうか。いや、逆に、生活からはますます時間がなくなり、誰もが忙しがっているように見えるではないか」
テクノロジー教の狂信的な信者ってとこで。たまにノートPCではなくフリーハンドで文章や絵をかくときがあるが、そのらくちんで自由なこと。
サン・テグジュペリの『星の王子様』に出て来るキツネの教え。
「時間をムダにするとは、効率性、生産性、合目的性などの要請から自由に、自分の時間を生き、自分の人生を生きること。愛とは、それが何の役に立ち、何の得になるかにはかかわらず、惜しげなく相手のために時間を使うこと」
「無辜の愛」ってヤツ。見返りや代償を求めない。
他にも「ブルシット・ジョブ」や「ケア」、「ネガティブ・ケイパビリティ」なども考え方やその背景など、わかりやすく述べられている。
最後に、個人的にウケた小話を引用。
「江戸の小話にもこんなのがある。長屋の大家と怠け者の若者の会話だ。
「なんでえ、いい若いもんが、寝てばかりいねえで、起きて働け」「働くとなんかいいことあんすか?」
「そら、稼げば、銭が稼げらあ」「銭稼ぐといいことあんすか?」
「そら、稼げば、金持ちになる」「金持ちって、なんかいいことあんすか?」
「そら、金持ちになったら、もう働かずに寝て暮せる」「それなら、もうやってます」」
おあとがよろしいようで。