すでに 安部公房らしいものもあるし、そうでないものもある

 

 



『 (霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』 安部公房著を読む。

 

BSマンガ夜話』だと思うが、その番組でいしかわじゅんが漫画について、こんなことを述べていた。「「漫画」の「漫」は、センスや構成力、「画」は、絵のことをいう。「画」は、キャリアを重ねて枚数をこなせばうまくなる。しかし、「漫」は、生まれついてのものなので…」小説についても同じようなことがいえるんじゃないかな。

 

本作では「19歳」に書いた『(霊媒の話より)題未定』から「2012年」発掘された『天使』などの作品が読める。

 

決定稿でないもの、未完のもの、原稿の一部が不明のものなど、いろいろ。すでに著者らしいものもあるし、そうでないものもある。ファンはもちろん、ぼくのようにさほど熱心でないファンも、既成の小説の枠を乗り越えようする、あるいは、新領域に越境・侵犯する作者の企みをエンタメ的に読める。何篇かのあらすじや感想を。

 

『 (霊媒の話より)題未定』
戦争が始まった頃、山間の村に小さな孤児がやった来た。「曲馬団から逃げ出したきた」少年、パー公。もう一人、彼より少し年上の男、クマ公がやって来た。彼は物乞いで食いつないでいた。夢は曲馬団の一員になることだった。パー公は亡き家族と再開する不思議な体験をする。地主の奥さんがそれは「霊魂」だと。二人は村を出て今後のことを話す。パー公は、地主の家で働きたいと、戻る。その姿や物言いは婆さんにそっくりだった。事故で死んだ婆さんがパー公を霊媒にしたのだ。パッカードのような読後感。


『オカチ村物語(1)老村長の死』
「東北の一寒村」「戸数僅か13」の村長が突如、帰宅。不機嫌そうな声で妻に風呂を沸かせと言ってケンカしていた子どもたちに片端から拳骨をくらわせて強制停戦させる。入浴中に不慮の死を遂げる。ほくそ笑む巡査の息子。


『天使』
「精神病院から」脱走した「私」。すべての人間がなぜか天使に見える。素晴らしい多幸感にあふれた世界だが、後半には破綻をきたす。

 

『第一の手紙~第四の手紙』
「君」へ詩をテーマにした長い手紙を書く「僕」。第二の手紙で気になる男(「道路修理の人夫)を見かけたことを書く。第三の手紙では水銀自殺を図る。で、男が「運命の顔」だったことに気づく。夜、その男が来て面(マスク)を渡す。第四の手紙では、面(マスク)をつけた実感などを書く、死んだ僕。人は相手によって異なるペルソナ(仮面)をつけるというが。どことなくペソア風。


『悪魔ドゥベモオ』
主人公は「文部技官・加地伸」。彼は右手を失ったが、悪魔を呼び出し、相談に乗ってもらうことができる。 Siri のように気軽に呼べば現れる『悪魔ドゥベモオ』。二人の軽妙なやりとり。悪魔の蘊蓄も楽しい。人間臭い悪魔は漫画『デスノート』の死神リュークを思わせる。

 

キンドル氏とねこ』
一転ポップな文体、ポップな世界。キンドル氏、メタ嬢、カルマさん、亡くなったアクマさん。『壁-S・カルマ氏の犯罪』のモティーフというか習作なのか。


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