『刺青』藤沢周著を読む。
肌の露出が多くなる、この季節。目につくのはタトゥ。手首にリストバンドのようなタトゥを入れている若衆を見ると、「おや、島帰りですかい?」と言いたくなる。言ってもおそらくわからないとは思うが。
この作品は刺青がテーマ。タトゥーがおしゃれ感覚で見せることを意識しているのに対して、刺青は、露出を抑える。
いざというとき、見せる。江戸町奉行・遠山金四郎景元の桜吹雪。“緋牡丹のお竜”こと矢野竜子が見せる背中の緋牡丹の刺青などなど。
歌舞伎町で彫師をしている彫阿弥の元に18歳の少女アヤが訪ねる。彼は「30代前半の」男。やみくもに「彫ってください」と彼女。「背中一面に」「観世音か二匹龍を手彫りで」。
最初は断るが、彼女の白い肌に魅せられる。刺青が映える格好の素材だ。
「龍が掴んでいる水晶のたまには、南無阿弥陀仏と入れてください」
姉の自殺、彼女は妊娠していた。それによる母親のアルコール依存症。なんとかこのひどい状況から逃れるための鎮魂と安寧を願っての刺青だった。漠然と引退を考えていた彫阿弥。彫師魂に火がつく。
聖女であり娼婦でもあるアヤ。ケンジや元極道の辰一など彫阿弥の店に出入りするイカレタ連中。バー『モナリザ』のタイ人ノーマ。無国籍というのか多国籍というのかカオスタウン、カブキチョウ。
肌に施される刺青というアート。彫師と依頼主・アヤとのバトルとも思える格闘。
その描写はフリージャズのセッションのようだ。