インカ帝国がスペイン帝国を征服したら…

 

 

『文明交錯』ローラン・ビネ著 橘明美訳を読む。


ジャレド・ダイアモンド著の名著『銃・病原菌・鉄』では、インカ帝国は「鉄、銃、馬、そして病原菌に対する免疫」がなかったから、わずかな人数のスペイン軍に征服されたと。では、もしインカ帝国がそれらを持っていたとしたら、スペインはおろか欧州までも植民地化できたのか。んで、どんな世界になっていたのだろう。くせ者の著者は、そんなさかしまの世界を見せてくれる。

 

第一部 エイリークの娘フレイディースのサガ
グリーンランドから南下したバイキングにより鉄と免疫がインカ人にもたらされる。ヒロイン・フレイディースの叙事詩。スケールのでかい話でつかみはOK!

 

第二部 コロンブスの日誌(断片)
スペインのラテンアメリカ征服の礎をつくったコロンブス。功罪こもごもなのだが。日記スタイルは話に信憑性を出すのには良い手法かも。

 

第三部 アタワルパ年代記
アタワルパは、史実ではインカ帝国最後の王なのだが、王位継続争いに敗れ、新天地欧州へと出帆する。当時の神聖ローマ皇帝はハプスブルグ家出身のカール5世。なんとかオスマン帝国の侵攻を食い止めるが、その一方でドイツでは宗教改革がはじまるなど時代は変わりつつあった。アタワルパ率いるインカ帝国軍は苦戦しつつも勢力を拡大する。たとえば追い詰められここまでかと思ったら、沖合にスペイン人の技術指導で製造した大砲を備えた自国の軍艦が現われ、窮地を救われる。

まずスペインを植民地化した彼は、融和を図る。カール5世の死後、夫人を二番目の妻に迎える。また、キリスト教イスラム教に対して一方的な弾圧はしなかった。人々を飢饉から救うために、インカが原産地のジャガイモ栽培を奨励する。純血主義ではなく混血主義。それこそ欧州をクレオール化しようとした。しかし、メキシコの乱入によりアタワルパの運命は急転する。その激動の生涯が記されている。

 

第四部 セルバンテスの冒険
アタワルパの死後、混迷を深める欧州。
ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ』の著者セルバンテスと画家エル・グレコのいきいきとした青春痛快交遊録。そこに哲学者モンテーニュが絡む。


キャラ的に推すのは、小さい時にコロンブスの薫陶を受けたというキューバ王女ヒゲナモタがセクスィーで魅力的。

 

大河ドラマ並みの多彩な登場人物は紹介のページがほしかった。それから、当時のラテンアメリカとヨーロッパの地図も載っていれば言うことなし。

 

脚色次第では宝塚歌劇の演目になり得るようなエンタメ濃度の高い一作。

 

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