ぼくの好きな漫画家

 

 

 

『ずっと先の話』望月峯太郎著を読む。

 

本作は著者初の短篇集だ。いちばん古いのが1988年で、いちばん最近のが2001年まで。ただし、収録の際、「加筆・修正・着色」を施している。もうもう、そこまでこだわらなくてもいいのに。作者は寡作タイプだが、作品は、どれも、アタリ。

 

初見もあるし、再見もあった。短篇の分、作者の世界が濃縮されているし、何か長篇のように煮詰まったとこがなく、のびのびと好き放題しているような気がする。

 

やっぱり、デビュー作の『バタ足金魚』の話からはじめないと。水泳部の主人公のストーカー的純愛を描いた作品なのだが、何よりも、絵が新しかった。ぼくの世代のような顔デカ、胴長短足の旧大和民族体型ではなく、小顔で手足が長く、あっさりとした顔立ちの若者が街を闊歩するようになった頃、そんな風に描ける漫画家って稀少だった。

 

また、エアジョーダンだの、バイクだの、ラクロスだの、彼らのライフスタイルを象徴するような小道具も写真資料でトレースしたのではなく、きちんと生きていた。忘れてた、ブルテリアもいい味、出していた。

 

ぼくは、作者が有名漫画家のアシスタント出身なのかどうかについては知らないのだが、最初から何かセンスを感じさせる個性的な絵だった。次第に画力があがっていき、特にイロっぽい女の子がうまくなっていった。すっぴんの女の子の顔の表情や、伸びやかな胸や脚など描かれた身体が、五味彬の写真集『Yellows』にも通じるとこがある。

 

いけない、つい、絵のことを述べがちなのだが、作者のストーリー性についてもふれねばなるまい。何せカラーページがふんだんで、絵を見ているだけで飽きないもんで。

 

マイケル・ジョーダン&NBAルポ漫画を除けば、ジャンルはSFチックなものから変態学園もの、レディースボクシングものなどバラエティに富んでいる。富んではいるが、キャラクターは美醜を問わず、みな取り憑かれたように変だ。マルクス兄弟グルーチョのように自己完結したレトリックで、つっぱしっていく、そんなキャラばかり。


ストーリーもストレートのようで、結構隠し味が効いていて、ひねくれたものに仕上がっている。屈折はしてるんだけど、根性とかガッツとかって決して嫌いではない。もちろん、恋愛も。好きな人は、ますます好きになるしかないのだっ!

 

NBAを観戦して大興奮している作者に向かって同行した編集者が「そんなにバスケが好きなら、次はバスケ漫画だ!」と叫ぶシーンがあるが、ぼくも見てみたいな、望月峯太郎バスケ漫画。『スラムダンク』とは一風毛色の異なったバスケ漫画。いいよなあ。

 

さて、これからも、どんな漫画を見せて期待をいい意味で裏切ってくれるのか、楽しみ、楽しみ。


最新作が、無料試し読みできる。いちだんと絵がうまくなっている。
shogakukan-comic.jp

 

 

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